カルテ2:空(から)8

その晩私は必死に彼と話した事、行ったところを思いつくまま、紙にしたためていった。何か彼の失踪について手がかりは無いのか・・・何枚にも及ぶ紙を見つめ考える。幸い明日から3連休だ。心辺りをしらみつぶしに探してみようか・・・。

次の日、朝から僕は彼と一緒に訪れた店、食堂、よく遊びに行った場所などに足を向ける。昼を過ぎた頃、近くのハンバーガーショップで一息つく。
やはり、闇雲に探しても見つかる訳じゃないか・・・やはりもう一度考えてから探した方が良さそうだ。私は手帳を片手につらつらと考える。
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ーーなあ、お前さ、小笠原の父島って行った事ある?東京都にあるのにすっげー綺麗なんだぜ。あ〜、あの海もっかい見たいな〜。

ーー海ですか?伊豆や小笠原の方はあまり行った事がないですね。そんなに綺麗なんですか?
ーーああ・・幼い頃、一度行っただけだけどな・・・・一番奥にあるジニービーチってのが、秘境とでも言うのかな・・・交通の便が悪くて滅多に人がこねーんだ。お前も一度行って見るといいよ、マジ綺麗だからさ。

ーーそうですね、そのうち機会があれば・・・
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私はその記憶にはっとして立ち上がる。もしかして・・・?私はすぐに立ちあがると駅へ向かって走り出した。駅につくと駅員に意気込んで尋ねる。
「すみません!此処から小笠原諸島、いえ、正確には父島まではどうやって行くんですか?」
「え?今から父島に行くんですか?無理ですよ。いくら東京都っていっても小笠原まで行ってからフェリーで25時間もかかるんですよ?」
「25時間・・・・?そんなにかかるんですか?」困ったな・・・さすがにそんなに遠くてはちょっと探しに行くという程度ではない。

どうしよう・・・先生に伝えてみるか・・・私は公衆電話から先生の自宅に電話をかける。何か思い出したらすぐに連絡をほしいと言われて番号を教えてもらっていた。
手帳を取り出し、一つ一つ番号を押して行く。
プルルルル プルルルル プルルルル プル
「はい、工藤です。どちら様でしょうか?」
「工藤先生、渡部です。」
「おお、渡部か、どうした、何か気がついた事でもあったのか?」
「僕も今日朝から思いつくところは探してみたんですが、もしかしたらと思うところが1カ所あって・・でもちょっと、いやかなり遠いところなんです。」
「どこだ?!」
「小笠原諸島の父島です。」
「小笠原諸島だって?そりゃ・・・随分と・・よし、わかった。一応俺の方から斉藤のおふくろさんに連絡を入れてみよう。しかし何故父島なんだ?」
「以前、斉藤と話していた事があって・・もう一度父島の海が見たいって、、確かジニービーチとかって言ってたと思うんですが。でも、本当にそこまで行っているかどうかはわからないですよ?」
「そうか・・・わかった。すまんな。まあ、また何かあれば連絡をくれ」
カチャリと切れた受話器のツー ツーと鳴る音をしばらく聞いていた。それから3日後、斉藤は無傷で発見されたとの連絡がはいった。本当に小笠原諸島にいたようだ。
私は学校が終わった後、斉藤の家を訪れた。斉藤の母親に出迎えられ、2階の部屋へと案内される。
「隆弘、渡部さんがお見えになっているわよ。」その声に返事はない。
電話がかかって来て母親が慌てて下に降りると同時にカチャリと音がしてドアが開いた。
久しぶりに見るやつの頬は赤黒く変色していた。俺を部屋に引きずり入れるともう一度鍵を閉める。最初の言葉は「吃驚しただろ?」だった。
それは、彼が失踪した事に対してなのか、それともその頬の腫れの事なのか、それとも両方なのか・・私はゆっくりと頷いた。

「まさか、見つかるとは思わなかったなあ・・・。基本俺の親って俺の事まったく知らないし、お前が父島の事を覚えているなんて思いもしなかった。」

「その頬、お父さんに殴られたんですか?」

「まあ、これで済んだのは良かったかもしれないけどな・・」そういって斉藤は痛そうに頬をさすった。口の中まで切れているのは本当に痛そうである。

「何故・・・失踪したんです?」私は斉藤君の目を見据えて聞いてみた。私も少し神経が高ぶって怒っていたのかもしれない。彼が何も言わずに姿を消した事を・・・。

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