7話:古本の謎

寝覚めの悪い朝だった。何か夢を見ていたのだろうか・・固く握りしめた手に汗をかいていた。リディアは起き上がるとベットサイドに置いてあった水を一気に飲み干した。今何時ぐらいだろうか・・?ベットから降りると、窓のカーテンをそっと開ける。空は白々しく明けていた。

昨日は本当に様々な事のあった1日だった。父様との謁見、馬鹿王子の来訪、そしてユフテスへの訪問・・そうだ、やっと行く事ができるのだ。

数年前よりリディアは、内密にユフテス王家の秘密について密かに探りを入れていた。どうしてあのカイル王子と一緒に生まれた彼が一人、名前を消されなければならなかったのか、そして生け贄とは・・?だが何と言っても他国の、それも超一級秘密事項だ。そんなに簡単に分かる筈もなく、八方手を尽くしたがあの時に、少年が言ってた事柄以上の収穫は無かった。

そんな時、彼女はある一冊の古本を手に入れた。方々を旅して回る流浪の商人から偶然手に入れたその本はユフテス王家にまつわる伝説、または歴史書と言っても差し支えないだろう。どういう経緯であの商人がこの本を手に入れたのかは知らないが、これはユフテスに関わる秘密を解く鍵となりそうだった。その本には、これまでにユフテスが生け贄として捧げた4人の人物の事、そしてユフテス創世に関わるある一人の少女と竜の話が書かれていた。本は長い年月の中で損傷が激しく所々裂けて、半分ぐらいのページが損なわれていた。だが、リディアはこの本によって希望を見いだした。そう、、あの少年を救えるかもしれないきっかけを。

その本に書かれていた4人の生け贄、だが実際に生け贄となったのはそのうちの3名のみで、残りの一人は何らかの理由で生け贄にならなかったのだ。確かあの時少年は、生け贄となる魂をもつ者が生まれるのは国の守護が弱まった時・・と言っていた。確かに今までの記録を見ると、生け贄が捧げられた時代背景には、国の存亡に関わる様な事件がいくつか起っていた。戦争や日照りによる飢餓など・・・だが今のユフテスには今までに生け贄が捧げられた時の様な問題が起っているわけではない。

塔に閉じ込められているあの人も、まだ生きている。だけど最近カイル王子の誕生日に合わせて、塔の見張りが増えたとの連絡が入っていた。それはここ数年、ユフテルに滞在している諜報部員からの信頼の置ける情報だった。何かが・・起ろうとしているのだろうか?

彼と同じ生け贄の魂をもって生まれた遥か昔の人物、、その中の1人だけが何故生け贄になる事を免れたのか、リディアはそこに鍵があるのではないかと考えていた。しかし、肝心のその部分はごっそりと抜け落ちている。それにその本にはまだ不可解な点がいくつか残されていた。国の創世に関わるという、少女と一匹の竜・・。竜は最後にその姿を目撃されたのは500年程昔だという。竜がどれほどの長生きかは知らないが、ユフテスの創世に関わったというその竜はこの生け贄という儀式と関わりがあるのだろうか?分からない事だらけだった。

そういえば、ジェラルドはカイル王子の親友・・?だとか言っていた。もしそうならあの馬鹿王子を通じて何か聞き出せるかもしれない。私がカイル王子とあったのは、8年前に滞在していた短い間だけ・・・他国の舞踏会で何度か形式上の挨拶は交わしたものの、カイル王子は姫君達に人気が高く、まともな話が出来た試しがない。
リディアは去年の暮れのパーティーで見かけたカイル王子の容貌を思い出していた。毎回女たらしのジェラルドだけでなく、カイル王子も数知れない姫君や貴族の子女達に囲まれていたのは知っている。そういうリディアも負けず劣らず多くの男達に囲まれていた訳だが・・

カイル王子・・一体どういう人なんだろう?あのジェラルドの友達ってことは・・・微妙だわ。
でもあの馬鹿王子、使えるかもしれない・・。リディアはにんまりと笑った。

 

           前のページへ  / 小説Top / 次のページへ