6話:迷惑な来訪者

「とにかく、考えていても仕方ないわ・・。マリアベル、色々と準備を手伝ってちょうだい。カイル王子へのプレゼントも用意しなければならないわね。」
リディアが召使い達に指示をしようと立ち上がると同時に、部屋のドアがノックされた。
「姫様、あの・・お客様がいらしてますが・・」そういっておずおずと声を掛けて来たのは新米メイドのナタリーだ。多少ドジな面もあるが年も近く、誠実な働きをする彼女をリディアは気に入っていた。

「客・・・?いったい誰なの?」

がやがやと賑やかな声が聞こえてきた。「お待ち下さい!王子、そちらは姫様の・・・」「困ります、お戻り下さい、ジェラルド王子、お願いです!」悲痛なメイド達の声を振り切ってこちらに歩いてきた「客」を見た途端リディアの顔が引きつった。

「・・・あんの馬鹿王子!」
リディアの姿をみとめると、王子は颯爽と手を振って近づいてきた。
「ストップ!それ以上近づかないでちょうだい。あなた、いったい何しにきたの?」
そう、それは先月「どうしても」との父の頼みで見合いをした、エストラーダの王子、ジェラルドだった。エストラーダの国王は、アストール王の長年の親友で、先方から是非に・・と薦められた第二王子との見合いをしぶしぶ受けて見合いしたのだが・・・

姿、形は悪くないのだ、この王子・・ただ性格が破綻的に壊滅している以外は・・。ジェラルドはにこにこと笑いながらリディアの手を取ってキスをした。
「ちょっと何するのよ!」リディアは反射的に手を引っ込めた。鳥肌が立っている。

「御挨拶だなあ・・・そんなに嫌がらなくたっていいじゃないか。久しぶりだね、リディア。そんなに怒ると皺が固定するよ?」ふふっと笑ってジェラルドはリディアの顔を覗き込んだ。

「余計なお世話よ!まだ皺が固定するほどの年齢ではなくてよ。それよりも何しにっ」
すっとジェラルドはリディアの細い腰に手を回すと強引に歩き出す。

「さっき、国王に聞いたんだけど、君、ユフテスに行くんだって?」腰にまわされた手を振りほどきつつ、リディアは注意深く相手の顔を見据えた。父様ったら余計な事を!

「・・ええ、父の代名として参加する予定だけれどそれが何か・・?」しぶしぶ彼を部屋の中に招き入れたリディアはソファにゆっくりと腰掛けた。

「ふうん、そうなんだ・・丁度いいや、僕もユフテスに行くから一緒にどうかなと思って。」

何を考えているのだろう・・・ジェラルドの表情からは何も読み取れない・・これでも幼い頃は、今と大違いで国も近い為よく遊んだ仲だったのだが、いつからこんな破壊的な性格になったのだろうか・・・そうだ・・あれは彼が王家の子女達の集う学問の都、リザルに留学してからだったか・・。学校が休みになると、ちょくちょく、このアステールにも遊びにきていたのだが、だんだんと、昔みたいに彼が何を考えているのか分からなくなっていった。

ここ数年は、顔を合わせると、リディアが不快になるほどちょっかいをかけてくる。性格はともかく見た目の良いジェラルドはリザルでも浮き名を轟かせ、何もリディアでなくても、彼が女に困る事はないだろう。まあ、違った意味合いでの問題はちらほら起っているようだが・・。見合いだって、私が彼と結婚する意思が無い事を一番知っている筈なのに強引に話を進めて、断ったにも関わらず彼の態度は一向に変化する様子がない。本当に何を考えているのか・・

「貴方もユフテスへ・・?」
「そう、何と言っても僕はカイルの唯一無二の親友だからね。特にユフテスでは王族の18歳の儀式は特に盛大だというし、お祝いに行かないとね。」

そうか・・ジェラルドはあのカイル王子の同級生であり、この二人は今年同じく18歳になるのだ。

「貴方とカイル王子が親友だなんて初耳ね・・・というか、、それは良いとして、何故わざわざ一緒に行く必要が?」

ジェラルドはにやっと笑うと、「これでも君の父上には信頼されているんだよ。不肖の娘を宜しく頼むってね・・。まあ、僕の剣の腕があれば、何かあったとしても、君の事を守ってあげられるしね?」確かにむかつく事に、ジェラルドは女遊びの浮き名以外でも、剣の道にかけてはエストラーダだけでなく諸国にもその腕は認められている。

これ以上言い合いをしても、どうせのらりくらりとかわされて時間の無駄だと踏んだリディアは仕方なく承諾した。
「わかったわ。とりあえず出発は1週間後よ。それまであまり私の目の届かない所で大人しくしておいてちょうだい?」そしてまた波乱の種が一粒増えようとしていた。

 

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