61話:離島3

時を同じくしてーーー
「近頃、何かと忙しくしておるようじゃが、お前はいったい何を調べておるのだ?」
竜の聖地には、知の洞窟と呼ばれる、数々の書物を蓄えた大きな洞窟があった。その一角でミルセディは長老に呼び止められた。
「これは・・長老。この間、キルケが戻って来た時に言っていた男の事が少し気になって調べていたのですが・・・キルケに付きまとっているというジークフォルンという名の・・。」

「ジークフォルン・・とな?これは、懐かしい名を聞いた物じゃ。遥か昔、この聖地にもよく遊びにきてた者じゃ。お父上と一緒にな。異能者達が亡くなったその後もジークフォルン殿は何度かこの聖地を訪れている。お前達は小さかったから覚えてはおらんかもしれんが・・・」
「あっ!」ミルセディは大きな声を上げる。そうだ、思い出した。何処かで聞いた事のある名だとは思っていたのだ。

「長老、彼は、その・・例の・・?」

「そうじゃ、賢者と呼ばれた異能者の長、ガルムンド様のご子息じゃ。しかし、、はてガルムンド様が死んでから幾万の年月が流れたか・・・ふむ・・確かジークフォルン殿は我らと同じく転生の術を使っておったが、我ら竜族とは違う転生の仕方じゃからのう。あれらの転生は魂ごと他の者に移っては生まれてくる。毎回遭う度に姿形が違うのが難点じゃが、最初から魂の色に目を止めていれば見分けるのに雑作は無い・・。」

「魂ごと転生するのですか・・・?異能者とはすごいのですね。」竜族は確かに神の領域とも言えるぐらい長生きはするが、その者の生まれ持った魔力の差で転生できる回数は決まる。並外れた魔力を持つ、キルケさえ、子を産んでしまえば、その後の転生は厳しいものになってくるだろう。実際、生まれてくる子供の数が減っている上に、力も衰退して来ている。

「いやいや、あんな事ができるのはほんの一部の者だけじゃ・・。ガルムンド様や他の能力者達も、あんな事が無ければのう・・力を使いすぎて魂まで消滅してしまいおったのじゃ。前時代の人が作り上げた核というものの威力はそこまで酷かった。それに我らにとっても、憎しみや血で満ちた大地はすでに生きづらいものとなってしまったしな。

まあ、だがあの者は本当に特別じゃ。ガルムンド殿の奥方も異能者との間にできた子供じゃったのだが、総合作用とでも言うのか、ジークフォルン殿は生まれた時からすごい力を秘めた子供での・・幼い頃よりありとあらゆる魔術や錬金術などをマスターしておった。浄化を終えた大地で生き残った数人の力ある能力者の中の一人じゃからな。まあ・・・その分あの者の趣味はちょっと歪んでおるがな・・。まあ、あれだけの力を有するのじゃ、少しぐらい歪みも生じてくるのじゃろう。

以前、あの者が来たのは、いつだったか・・・ああ、そうじゃ、キルケが生まれた頃じゃったのう。えらく可愛がってたものじゃった。あまりにいじりすぎてキルケはよく逃げ出しておったがの・・お前も、よくジークと彼の事を呼んで慕っていたではなかったか?」

「はい、ですが余りに昔の・・お恥ずかしながら私も幼竜の頃の話ですっかりと忘れておりました。キルケから名を聞いた時に、思い出しかけたぐらいで・・。」

「ふむ、ではジークフォルン殿は今、キルケと一緒におられるのか・・?」

「いえ・・・そういう訳ではないようなのですが・・」ミルセディはキルケから聞いた話をかいつまんで長老に話す。
「ははははは、なるほど・・な。まあだが、キルケにとって悪いことにはならんだろう・・。あやつの父、ガルムンド様とアルファスの恩師だったバルザック殿は大の親友であったからな、きっとあやつの助けになってくれるだろう・・。」

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キルケは、リディアに忘却の魔法をかけた。これで目覚めた時にはキルケを追って来た事さえ忘れているだろう・・。移転の術でリディアを船内の部屋に連れ戻し静かにその体を横たえる。幸い誰も部屋にはいなかった。
キルケはもう一度遺跡のあった場所に戻ると幾つか懐に入れておいた質の良い魔石を等間隔に配置していく。これを使えばそうそう無理をする事無く、この遺跡を破壊する事ができるだろう。

こんな物は今の世界には必要のないものだ。キルケは静かに呪文を唱えた。大きな爆発音と共に遺跡が木っ端みじんにくだけ散った。またそれを念入りに地中深くに沈める。
一連の作業を終えたキルケは何事も無かったかのように船へと戻った。

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