60話:離島2

キルケを探してジャングルに分け入ったリディアだったが幸いすぐにキルケを見つける事ができた。黒ずくめのマントを羽織ったキルケが魔法陣の上に立って呪文を唱えている。
「キルケちゃん!」リディアはキルケを見つけたうれしさで何も何も考えず、いつものように走りよってキルケに抱きついた。
そして、突然の事に吃驚とした顔のキルケとリディアは一瞬の内にその場から消え去った。

「なんて危ない事をするんだ、お前は!!!お前も魔術を少しでもかじっているなら術者が術を唱える魔法陣の中に入ってくるのがどれだけ危険な事かわかっているだろう!もしこれが未熟な魔術師ならお前もろとも死んでいたかもしれないんだぞ!」

「ご、ごめんなさい。キルケちゃんの姿が見えなくて探しにきたのだけど、キルケちゃんを見つけてうれしくなって、つい・・・」

キルケは自分より背の高いリディアを見上げるとため息をついた。
「仕方ない・・・勝手に船からでたのは俺のほうだからな。まさかお前が追ってくるなんて思ってもいなかった。お前・・・本当に王族の姫なのか?むちゃくちゃにもほどがある・・・。」
キルケは先刻のリディアとジェラルドのやりとりを思い出す。足手纏いだと言い切りリディアを置いて行ったあいつの心境には同調するものがある。まったくこのお姫様はいったい何をし出すかわからない。ジェラルドの奴も幼馴染みだというこいつに、いつも振り回されていたに違いない。

「それよりも・・・・キルケちゃん、ここはいったい何処なのでしょう?」
人がせっかく魔術についての心得をとくとくと言い聞かせているというのに、当の本人、リディアは大きな黒い瞳を見開いて興味新々と言った様子で周りを眺めている。

「ここは、島の中心にある前時代の異物・・・まあ遺跡というやつだ。」
「遺跡・・?これが・・・」
確かにそれらはリディアが今まで見た事も聞いた事も無い様なものだった。手元に転がっている金属らしき物の破片を手に取る。

前時代・・・・それは遥か昔人が知恵を得、奢りと高ぶり、憎しみや争いの上で科学力を発達させ、その結果この大地を一時は誰も住むことの出来ぬ汚染された大地へと塗り替えた人の負の歴史である。
だが、今生きている人類と呼ばれる者たちの中で前時代を知るものなど一人もいないであろう。彼らは全て滅び去ってしまったのだから。今、人類と呼ばれる者達はすべて異能者の血を引いている者達だ。大陸の王族のいくつかはその中でも特に突出した異能者の能力をもった者達が祖になっているものが多いと聞く。アステールも確かその様な国ではなかっただろうか・・・。

キルケは夢中で遺跡を調べるリディアを眺める。オリバー爺が異能者達は能力だけでなく、性格も変わった者が多かったと言っていたが・・リディアの突拍子もない行動は彼らの遺伝子のお陰なのだろうか・・・。

「キルケちゃん、すごいわ!私、こんな物見た事がない!これはいったい何の遺跡なのかしら。私、一通り、大陸の歴史を学びましたが、こんなものは本当に聞いた事がありません。考古学的な大発見だわ!」

キルケはちっと舌打ちをする。興味本位で見に来たものの、これらの前時代の遺跡は本来「人」に見せるべきものではない。アステール出発前に、オリバー爺が最後に言っていた事を思いだす。
ーーそうそう、キルケや、お前も地上で幾つかの前時代の遺跡を見た事があるじゃろう・・?

ーー遺跡・・それって、飛んでる時に時々見た、あの銀に光るやつの事か?

ーーそうじゃ、あれはその昔、人間が「核」と呼ばれる恐ろしい兵器を作り出した場所なのじゃ。幾つかは徹底的に跡形も無く消し去ったが、人が訪れる事のない地ではまだ幾つかが眠っておる。いや、もう機動することはあるまいて・・核自体も全てなくなっておるでの。

ーーそれがどうかしたのか?

ーー万が一・・・人がそれに近づく事があれば、破壊せねばならん・・・もう一度あの悲劇を繰り返さん為にもな。過ぎた力は己に破滅をもたらすからのう。

ーー何故それを今俺に言うんだ?

ーーんん・・年寄りの感じゃよ。まあ、そう言った事は無いと思うがな。
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リディアはキルケの表情にはまったく気付いた様子もなく嬉々としてあちこちを見回っている。
一人ならば・・記憶を消すことも手だが、、この島にはジェラルド達もいる。
ここにたどり着くには、絶壁の谷を超えて来なければいけないが、万が一ということもある。やはりオリバー爺の言った通り、壊す他無いか・・・。

キルケはそっとリディアの背後に忍び寄ると手刀を落とす。あっと言う間にリディアはその場に崩れ落ちた。

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