62話:離島4
突然地響きの様な激しい揺れと爆音が響いた。ジェラルド達は突如起ったその自体に動揺する。
「なんだ、いきなり!」
しばらくして揺れが収まると騎士の一人が青ざめた顔で問う。「地震ですかね・・・?」
「地震で爆音が伴う訳ないだろうが!これは何かが爆発した音だ。島の中心辺りだな・・・誰かいるのか・・いや、ともかく一度船に戻ろう、リディア達が心配だ!」そう言うとジェラルドは島の中心部辺りに目を凝らす。あれだけの爆音だったというのに、塵一つ飛んで来てはいない・・誰かがシールドを張ってその中で何かを爆発させたのか・・?一体誰が・・・
一行は足早に船に向かって歩き出した。船につくとマリアベルが出迎えた。
「あれ、皆さん、思ったより早かったのですね。もう必要な木材は切り出し終えたのですか?」
「いや・・まだ全部ではないが・・・。何か変わった事は無かったか?リディアはどうしてる?」ここまであの爆音は聞こえなかったのだろうか・・?
「リディアーナ様なら先ほど、お部屋に様子を見に行きましたが、ぐっすりとお休みになっておられました。きっとお疲れになったのでしょう。変わった事と言えば、先ほどちょっと船が揺れたぐらいですか・・一体どうなさったんです?」音は聞こえなかったが、揺れは感じたと言う事か。下手に心配させるような事はしたくない。
「いや・・・何もなかったらそれで良い。ところでキルケは?」
「さあ、そういえば見てませんわね。私達はずっと厨房にいましたから。」
「そうか、わかった、ありがとう。」ジェラルドは、船内のキルケの部屋に向かった。
ーーコンコンーーコンコンーー
「誰だ・・・?」
「キルケ、ジェラルドだ。悪いがちょっと開けてくれないか。」
中から不機嫌そうなキルケが顔を出した。
「お前、ずっと此処にいたのか?」
「ああ、何故だ?」
「いや・・・それなら良いが。先ほど島の中央辺りで大きな爆音がしてな。かなり揺れたのだが、お前は何か気がつかなかったか?」
「爆音?さあ、俺はずっとこの船にいたがさほど何も感じなかったぞ。それよりお前、材料の調達はできたのか?」
「ああ、ほとんどな。これからまた手分けして切り出した木を加工して行かないといけないが・・・そうか・・お前が何も感じなかったというのなら、そんなに心配する事は無いかもしれないな。だが、できるだけ早くこの島をでた方が良さそうだ。無人島・・・のはずなんだが、どうも違った気配がする。」
「そうか・・・」キルケはじっと歩きさるジェラルドの後ろ姿をしばらくの間眺めていたが、部屋の扉を閉めると簡易なベットの上に腰掛けた。
気がつかれたか・・・?いやそんな感じではなかったが、まああれだけの爆音なら怪しまない方がおかしい。何にせよ、さっさとこの島を出て行くという案は好ましい。ジェラルドではないが、島の中央付近にいた時、ずっと誰かの視線を感じていた。この島にいるのはどうやら俺たちだけでは無い様な気がする・・・。
キルケは立ち上がると部屋をでて看板の方へと歩いていく。砂浜では、船員達が切り出した木の加工を初めていた。キルケはじっと空を見ていたがふと呟く。
「嵐がくるかもな・・・」生暖かい風がキルケの頬を撫でた。明日には出発できると良いのだが・・・。
夕方近くになると船の修理も随分と効率よく出来上がってきていた。マリアベルが船員達や騎士に向かって声をかける。
「皆さん〜!夕食の用意ができました。一度中断して夕飯を食べましょう!」
リディアと、キルケ、そしてジェラルドは船長と一緒にマリアベルらが用意した夕食を食べ、また船員や騎士達は砂浜で思い思いに夕食を取っていた。
「リディア、随分と長い間、眠っていたんだな。大丈夫か?」ジェラルドが問いかける。
「ええ・・少し疲れたのかしら・・随分と長い夢を見ていたように感じるわ。それに寝違えたのか首が痛くて・・・。」そういってリディアは細い首をさすっている。
少し強くやりすぎたか・・・キルケはそっとリディアの様子を伺う。
「船の修理具合はどうなの?」リディアがジェラルドに話しかける。
「ああ、おおまかなところは終わっている。あとは細かい部分だけだな。」ジェラルドが答えた。
「皆さん、頑張ってくれてますから、明日の朝には出発できるのではないでしょうか。」と船長が朗らかに言った。
「まあ・・・今晩何も無ければ・・・な。」キルケが低く呟いた。
ジェラルドがぎょっとしたようにキルケを見る。「・・・何かあるのか・・?」
「いや・・・わからないが、確かにお前の言ったとおり、何か不自然なものを感じるんだ。誰かにずっと見られている感じが・・。」これも野生の感とでも言うのだろうか。
「船がいきなり方角を変えたのも、海蛇に襲われたのも偶然とは考えにくい・・。何者かが裏で操っているような気がする。」重い空気がその場を支配した。
「思えば・・カイルと水鏡を使っていた時からなんだか変な感じがしていたんだ。誰かが俺たちの行く手を遮ろうとしている・・・。やはりグランディスの手の者か・・かなりの腕の魔術師である事は間違いないか。」
「まあ、魔術師という線は妥当だろうな。だが・・・この島にいるのが人間だとは限らない。」キルケの金色の瞳がその場にいた全員を貫いた。