46話:蜘蛛の糸5

「なんなんだ、いったい・・・」突然途絶えた交信を前にジェラルドは絶句する。
暫くの間回復を待ったが一向に変わる様子はない。ジェラルドはちっと舌打ちすると、部屋を出てリディアの待つ部屋へと向かった。
「あら、ジェラルド兄様、カイル王子との交信は終わったのですか?」部屋へ入ってきたジェラルドの姿を認めると、リディアが聞いてくる。
「切れた・・・」
「は?」リディアがきょとんとした顔を向ける。
「だから、突然切れたんだ!いったいどうなってるんだ。あんな事は初めてだ。」イライラした口調でジェラルドは部屋の中を歩き回っている。
「切れたって、交信が突然途絶えたのですか・・・?それは確かにおかしいですわね・・。私もそんな事初めて聞きましたわ。」

「何か強い魔力の妨害があったなら十分に起こりうるぞ?」いきなり天井から声が降ってきたと思えば、何か黒っぽい物がどすっと音を立てて落ちてきた。
「うわっ!」 「きゃあ!」リディアとジェラルドの声が重なる。

「なっ・・キルケ?」
「キルケさん?」ジェラルドの声を聞いてリディアはその黒い物体に目を注ぐ。黒い物体・・・もといマントをすっぽりと頭から包んだキルケの金色の瞳が覗いている。

「お前・・・いったい何処から・・いや、それよりも、どうして此処が分かった?!」ジェラルドの声が響く。室内にいたメイド達も腰を抜かして床にへたり込んでいる。

キルケはゆっくりと室内を見回すと言った。「城の外にでるつもりだったのだが・・。魔法陣の構成を間違えたか・・・。」ジェラルドの質問には答えずぶつぶつと呟きながらキルケはフードを取った。

ーーああ、やっぱりキルケちゃん可愛い・・・・。あんな黒いマントなんて着ずにもっと可愛いお洋服やドレスがいっぱいあるのに・・。とリディアはつい先ほど吃驚した事も忘れてキルケを凝視する。意外に胆が座っているリディアであった。

「おい、キルケ!」ジェラルドはつかつかとキルケのところまでやってくるとその小さな肩をつかんだ、、がぶわっと一陣の風が吹いたかと思うとジェラルドは軽く吹き飛ばされた。
「いきなり触るな・・。」どうもジークフォルンの一件で過敏になっているキルケだった。
「いってえぇ・・・。」無様に尻餅をついたジェラルドの元にルークが駆け寄った。「ジェラルド様、大丈夫ですか?!」
ルークはキルケを睨みつけると腰にさしてあった短剣を抜く。「こんの、無礼者!」
「おい、止めろ!ルーク!」キルケに向かって走り出そうとしたルークだったが、何故か足が地面にぴったりとくっついて離れない。ルークの耳にキルケの馬鹿にした声が聞こえた。「まったく・・・これだから人間は・・」と言いかけたところで今度はキルケの悲鳴が上がった。リディアがキルケを抱きしめ頬ずりしている。
またまた不意をつかれたキルケだったが、にっこりと笑いながら金色の巻き毛を梳くリディアを見てため息をつくと何も言わなかった。ジェラルドはそんな二人を少しの間羨ましげに見ていたが立ち上がってルークからナイフを取り上げると、キルケに言った。

「ルークにかけた術を解いてやってくれ。」次の瞬間金縛りが溶けたかのようにルークの足が軽くなり、ルークはその場に崩れ落ちた。ルークは訳がわからないと言った様子でキルケを見ている。
緊張したその場に相応しくないようなのほほんとしたリディアの声が響いた。「びっくりしたのね、キルケちゃん、大丈夫?それにしても、よく此処が分かったのね?」吃驚したのはこちらの方だと部屋にいた全員が思ったが口には出さない。
少し不機嫌そうなキルケが言う。「ああ、以前会ったとき、鳥にお前達の後を付けさしていたからな。それにお前達の様な目立つ輩、調べればすぐに分かる。というか、お前・・・知られてないとでも思ってたのか・・?まあ、いい。俺は2日前の返事をしに来たのだがな、驚かせてしまったのならすまない。」

「私たちと一緒に来てくれるの?」リディアが真剣な面持ちでキルケに尋ねた。
キルケがにやっと笑う。「ああ、乗りかけた船だしな、最後まで見届けてやるよ・・。」自身の事情は隠したままキルケは二人にそう告げた。

 

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