45話:蜘蛛の糸4

「リディアーナ姫の事は、彼女が昔ユフテスを訪れた時から興味をもっていたさ。活発なお姫様だったよね。城を抜け出して、そして僕の片割れに会った・・・。

やだな、ジェラルド、そんな怖い顔をしないでくれ。大体リディアーナ王女が塔に行って、あいつと出会ったのも、すべて運命だよ・・。僕は何もしていない、いや、出来なかったと言う方が正しいけどね。

彼女は異常なまでに僕の片割れに執着した。同じ顔をもつ僕が妬けるくらいに・・。ユフテスにいある間も彼女は何度も何度も、王や周りの者にあいつの事を助けてやって欲しいと言って来た。この僕にもね。だが、あの時の僕らに何が出来る?実際、何もできなかった。諦めずに何度も何度も言い募る彼女を前にしてね。自分自身情けなかったよ。

父上は外交上の手前ずっと苦い顔をしていた・・さすがに他国の王女を咎める訳にも行かないしね。国に帰った後も彼女はあいつの事を気にかけて、お前以上に様々な事を調べようとしていたよ。僕もさすがに表立って情報を流す訳にはいかないが、多少は情報が伝わるように裏で手を回したりもした。確信があったんだ。彼女は必ず・・・もう一度やってくると・・弟の為にね。

君とリディアーナ王女が幼馴染みで交流があるのは知っていた。あ、でも君がリザルに来てからはそれほどでもなかった・・っけ?舞踏会で会ったときはびっくりしたな。あのお転婆なお姫様があんなに美しくなってるなんて、さすが傾国の美女と呼ばれたアステール王妃のご息女だけある・・君も彼女に釘付けだったよね、ジェラルド。」

じっとカイルの話を聞いていたジェラルドだったが、こうも他人の手のひらでうまく転がされていたかと思うと腹が立ってくる。「ほっとけ・・・お前だって瞬きひとつせずに見ていただろうが・・気付いてないとでも思ったのか・・くっそ、だったら何故、もっと早く言わない?!もっと早くにお前がこの事を相談していてくれたら、もっと他に手が!」

「できると思うかい・・・?君も分かっているだろう、この件はそんな簡単な問題じゃない。リザルにいた間、何度か君に打ち明けようとも思ったさ、だけどこれにはもっと複雑に色んな事柄が絡み付いている。お前だって仮にも他国の王位継承者の一人だ。巻き込むのは簡単だが、リスクが多過ぎる。」

「つっても、結局巻き込んでるんだから、今更仕方がないだろう・・・。は〜、、でもホントお前の言う通りどのみち運命だったんだよ。リディアがこの件にかかわり合った時からな。だが、ひとつ言っておくが・・・俺はリディアをお前やお前の弟に渡すつもりは毛頭ない、それだけは覚えておけよ!」

水鏡の向こうでカイルの心底おかしそうに笑う声が聞こえた。「うわあ・・・ほんと君って独占欲の塊だな。まあ、その件は無事にこれが片付いてから・・かな?」

「御託はいい、それよりも計画の中身の方だ、俺たちがユフテスにつくのは早くて6日後の夜か7日目、つまり儀式の1週間前になる訳だが、その時・・おいっ?!」
突如水鏡が揺れてジェラルドの顔が消え去った。誰かに邪魔をされた・・・?もう一度水鏡の上に手を置き、呪文を唱えるが、水はさらさらと流れて行くばかりだ。
ーーおかしい・・・やはり何かが邪魔をしている?しかし何故・・・どうやって?!
カイルは暫くの間、水鏡の表面をじっと見つめていたが、ため息をはくと呟いた。「どうやら、どうしても彼らに来てもらうと困る奴らがいるって事か・・・。」

しかし参ったな・・・肝心な話は何もしないままだ。ジェラルド達がユフテスに到着するのは約1週間後、それまでにこちら側でも出来る事はしておかねば・・カイルは踵を返すと風の封印を解き出て行った。

その様子をじっと見ていた者がいた。「ふふふ・・・そう簡単に事が運んでは面白くないからねえ・・・。じっくりと楽しませてもらうよ♪」

 

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