40話:竜の聖地4

「ふむ・・・少し成長した様じゃな・・・。もうそろそろ幼いお前達にも話しても良かろうて。とりあえず、其処へ座れ。少し長い話になりそうだ。」
2匹はごつごつした土壌から突きている岩の上に腰掛けた。

「この世界が出来、地が全ての恵みで潤っていた頃、地上には高い知能をもつ3つの種族がおった・・。一つは我ら竜族、そして人間、そしてあともう一つは異能者と呼ばれる人よりも遥かに巨大な力と突出した能力を持つ一族・・・。

我ら3種族は地上で争う事も隔てる事もなく平和に暮らしておった。3つの種族の中で一番力が弱く、また知能も低い人間を我らは教え、諭し、その生活を向上させるために様々な知識を授けていった。だが人間達は知識を増して行くにつれ、その心に妬みや憎悪、野心といった負の感情をも育てていった。

もう一つの種族、異能者達は見た目こそ人間のようだが、人間とも、また我らともまったく違う者。彼らは群れるのを好まなかったが、我ら竜族とは長く付き合いをしてきた。彼らは我ら竜族と比べても数えるぐらいの人数しかおらぬが、稀に人との間に子を儲けた異能者もおったと聞く。彼らが異能者・・と呼ばれる理由については、また後で話すが、そうして3種族がこの地上で暮らして暫くたった頃、人の心に芽生えた負の感情はとてつもなく巨大になり、人は地上で血を流し始めた。

地は人々が流す血で穢された。また人は我らが与えた知恵を発達させ、様々な咼(よこしま)な道具を作り、それらを使って水や植物までもが汚染されていった。地に住む動物達も次々と住処を追われ、我らは人に過ぎた知恵や知識を与えすぎた事を悔いた。しかし、一度急激に広がってしまった汚染は人間自身をも苦しめ、最終的に人も一度破滅の時を迎えた。

だが、そんなとき、幾人かの異能者とまた彼らと人との間に生まれた者たちが自らを犠牲にし、この地上の浄化を計った。我ら竜族は持たぬ浄化の力を異能者達は有しておった。全てとは行かぬものの、彼らの力で何とか、この地上は息吹を吹き返したが、元々数の少なかった異能者達は、数人の人との間に出来た子供達を残し、死に絶えた・・・。

我らは彼らが命をとしてまで救ったこの大地をもう一度見守って行く事にした。残された異能者と人の子孫達はまた少しづつ数を増やして行った。異能者達の子供は代を得るにつれ、持っていた浄化の力はなくして行った。私たちは過ちを二度と繰り返さんが為、人と接する事を最小限にとどめる事にした。幸か不幸か、地上は我ら竜族にとっても以前とは違い住みにくくなってしまった事だしのう。。我らは唯一異能者達が完全に浄化を施したこの地を聖地とし、人が入って来られる事の無い様封印を施した。」

「オリバー爺、じゃあ、何故、約5千年前、地上からやってきたあの娘はこの聖地の入り口までたどり着く事ができたんんだ?」キルケが問う。

「良い質問じゃ・・。人類が一度死に絶えた時に生き残った異能者達の子供らの子孫・・すべてではないが、稀に隔世遺伝なのか、魂にその強い力を宿す子供が生まれる様じゃ。あの娘は、異能者の力を色濃く受け継いでおった。お前達は知らんだろうがアルファスが幼い頃によく世話になっていた異能者バルザックの血を引く娘じゃった。あやつはその魂の色で分かったんじゃろう。あの者の血を引く娘の願い、あやつが断れなかったのも仕方あるまい。」

「キルケよ、あやつ、アルファスを恨むな・・あやつは我ら種族の罪、あの気高く美しかった異能者達を死なせてしまった事を誰よりも悔やんでいた。だが我らの人への干渉はまたあの悲劇を生み出しかねない。もし、今度そうなったとしても、次はないのだ・・我らも人も滅び行く道しか残っておらぬ。良いか、キルケ、リンドルン、お前達もこの爺の話をよく聞き覚えておきなさい・・・。」

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