39話:竜の聖地3

「ジークフォルン・・?なんかその名前聞き覚えがあるな。何処で聞いたんだろう・・・?」ミルセディは首を傾げながら考えている。
「知っているのか?!」キルケが金色の目をしばたかせて身を乗り出した。
「いや、知っているというか・・・なんだろう、なにか引っかかるんだけど思い出せないんだ。」
「どっちにしろさ、怪しい奴なら必要以上に近づかないのがベストなんじゃねーの?」とリンドルン。
「俺も別に近づきたくて近づいている訳じゃない・・・神出鬼没で、しかも気配を感じさせない事が多い。現に何度か後ろから捕まってるしな。奴が何者であれ、もし・・敵だとしたら厄介だな。なんだか得体の知れない感じがするんだ。」
「って、お前、それやべーじゃん。お前が気配に気がつかないって、結構こえーな。お前、地上では匂いとかも消してんだろ?でも、なんか興味あるな、そいつ。遭ってみて〜!」
「・・・遊びじゃないんだぞ、リンドルン。お前といるとほんっと気が抜けるよ、まったく。。」

その間もミルセディはずっと考え込んでいる。「ジークフォルン・・・ジーク?あいつか・・?いやでも・・・まさか・・な。」

「な〜にぶつぶつ言ってんだよ、ミルセ。大丈夫か?」リンドルンがぶわっと息を吹きかけた。風圧でミルセディとキルケの髪が逆立つ。不意にミルセディが立ち上がった。「ちょっと、俺、調べたい事ができたからいくよ。キルケ、お前明日には地上に戻るんだろ?後で寄って薬をもっていけよ?それと、そのジークフォルンって奴の事、とりあえず気をつけておけ。何か分かったらこちらから連絡する。」

「あ、ああ・・すまん、助かる。」
「じゃあさ、キルケ、オリバー爺んとこ行かね?爺、すっげーお前に会いたがってたぜ?」
「そうだな、一緒に行くよ。あのじいさんの話面白いしな。よし、じゃあ行くか!ミルセ、また後でな。」
「わかった、二人とも爺さんの前であんまり騒ぐんじゃないぞ。」そして3匹は別れた。
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キルケとリンドルンは竜達の中でも長老と同じぐらい長生きをしているオリバーの元に向かった。オリバーは3匹を生まれた頃から孫のように可愛がって、幼竜の頃より様々な知識や魔術を教え、また聞いた事もない面白おかしい話を聞かせてくれた。

2匹はオリバーが住まいとしている水晶の洞穴の前につくと爺さんの名を呼ぶ。
奥の方からのっそりと小柄な竜が出てきた。「オリバー爺!」キルケが叫びながら抱きつく。
「おお、キルケか、よう帰ったな・・。そんな小さな人型のままでは踏みつぶしてしまいかねん、どれ、儂も変化するか・・リンドルン、お前も変化してみろ。」
「ええ〜、俺人型になるの苦手なんだよ〜。」リンドルンが二人に思念を伝える。
「ふぉっふぉ、人型になれば、地上に降りる事も可能じゃぞ?お前もキルケ同様、地上を見てみたいんじゃろうて・・何度もやらねば上手くはならん。」

「ちぇ〜。」次の瞬間、リンドルンは薄い水色の髪と青い目を持つ少年の姿へと変化する。だが所々鱗がついたままだ。
「まだまだじゃな・・」「うん」と二人がリンドルンを見て呟く。
「くっそ、見とけよ、そのうち俺だってちゃんと変化できるようになるんだからな!」
しばらく3人で笑い合った後、キルケがオリバー爺に尋ねた。

「なあ、オリバー爺、昔話してくれた事があっただろ、遥か昔、竜と人間が一緒に暮らしていた時代の事・・・。俺、地上に行ってからさ、色々と不思議に思う事が沢山でてきたんだ。血の契約の事にしたってさ、なんか理不尽な話だよな。長老の言う通り、俺たちが長く人間とかかわり合いを持つのは良くないって、確かに俺も地上で暮らしているうちに思ったよ。

人間は寿命も俺たちと比べると遥かに短く弱い種族だがその分生殖能力はずば抜けて高い。まあ、俺たちもあまり地上に長くいると生きられないけど・・でも俺たちも昔は人間と一緒に地上にいたんだろう?いつから今のように地上と聖地に別れて住むようになったんだ?俺はまだまだ知らない事がいっぱいあるってすごく実感したんだ・・。」

「そういえば、そうだよな・・俺たちと人との関係っていつからこんな風になったんだ?」

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