32話:遠い記憶
やっと・・見つけたよ、アルファス・・愛しくて死ぬ程憎らしい貴方・・・俺はお前を許さない、そう、俺との約束を破ったお前を・・・。
黄金色に輝く悠久の時、俺はお前と共に飛ぶのが好きだった。空を切り、山々の間を抜け、頂きに降り立つ白く美しい翼をもつお前に俺は憧れていた。至高の存在、聖地に住まう汚れなき白の王、誰が考えただろうか・・そんなお前が我々を裏切り去って行くなどと・・
我々は、種族の掟を固く守り、地に住まうもの達より遥かに長く悠久の時を過ごす我らが、一定以上他の種族とかかわり合う事を良しとせず、孤高の頂きから地に住まうもの達を見守ってきた。また地に住まうものも同じくある程度の距離をたもちつつ、我らと接してきた。必要以上の接触は我らのみならず、他の種族にも善くも悪くも多大な影響を及ぼす。だからこそ、我らは聖地からほとんど出る事はなく一生を聖地で過ごすのだ。また、地上は我らにとって住みにくいところでもある。もともと出生率の高くない一族の中で久方ぶりに生まれた俺は一族の宝として大切に育てられた。
その中でも俺は生まれた時からアルファスを親の様に、また兄弟の様に慕っていた。一族の中でも稀な純白の王であった彼・・そして俺はずっと思ってたんだ、ずっと永遠に続くのだと・・あの時までは・・・あの娘が彼の前に現れるまでは!
私たちは決して今まで一度も人の世に干渉した事がない・・とは言わないが、彼らの生活を助けるためにそれは最小限の接触で行われていた。だから信じていたのだ。彼はすぐに戻ってくると。アルファス自身、俺にそう言っていたではなかったか・・?
それなのに彼は帰って来なかった。否、通常よりも長い年月を地上で過ごした彼の体は弱り切っていたのだろうが、それでも彼が私を望んだなら空をかけて彼の元に行けたかもしれない。俺はまだまだ幼い子供だったがそれでも他のものと比べ格段に高い魔力を身に宿し、新たな同族を生み出せる事が可能な俺ならば、子供とはいえ、彼を連れて戻ってくるぐらいできたはずなのだ。
だが彼は俺を呼ぶ事はなかった。それどころか、あの娘を喰らいあげくの果てに血の契約を成して地上に留まったのだ。確かに我ら一族の掟では、人の肉を喰らいその汚れを身に受けたものは一族から追放される。だがあの娘は希有な力をその身に宿し、またその魂も気高く美しかった。娘を喰らうだけならその身を穢さなかっただろうに・・しかし、だからこそ・・・彼が彼女を喰らい血による束縛を甘んじて受けた事を俺は許せなかった。また地上にどれほどの混乱を招く事になるか、聡い彼が知らなかったはずはない・・。彼は娘を喰らい生きた。通常なら長い間あれだけの障気を身に浴びたならいつ塵となってもおかしくはないはずなのに・・何千年かの間、俺はあいつ、アルファスの気を、受け止め続けていた。
俺はそれでも待った。お前の言葉を信じて・・だが約千年前、突如今まで離れていても感じられていた彼の気が途切れた。俺は狂った様に地上にあいつの気を探し求めたが、ぷつりと切れたそれは俺の感情をいらだたせた。死んでしまったのか、それとも・・?
俺は長老に願い、地上に降りた。最初は500年ほど前だっただろうか。俺を見た地上の人は恐れ惑い、話をできるようなものは見つからなかった。この姿のままではアルファスを見つける事が出来ない・・・俺は魔力を使い姿を人間に擬態させた。だがまだ幼い俺が自分の体を地上で長く保つ事はできず、人に見つからぬ様、何度か聖地とこの地上を往復した。
そして人として生活を続けしばらく立った頃、俺はこいつ、ジェラルドにあったのだ。