31話:希望のかけら
私は長い間考えていた。この国の行く末を・・・。いつまでもあの優しい竜に甘えている訳にはいかない。もともと始祖は、出来る事ならば竜をこの地に縛り付けるのではなく、聖地へと戻らせたかったのではないか・・。だが、彼の竜は血の契約によりこの地を離れられない。いわば、一度聖地を離れてしまった竜はもう帰る事ができないのか?と私は竜が眠りにつく前、様々な質問を投げかけた事があった。
血の契約ーーそれは不浄、聖地を離れた竜の行く末は我らの血肉を得ての生か死しかないのだろうか。それではあまりにも、悲しすぎる。幾度か訪れた我が友のもとで私は気になる事を聞いた。
聖地で気の長くなる様な年月を生きる竜。竜の出産率はとても低く、その為竜は何千年かに一度自分の体をもう一度文字通り甦生させるというのだ。始祖が本当に望んでいた事は、この白き竜をもう一度聖地へ返す事ではなかったか・・?竜の一族には人間とは違う掟があるとはいえ、甦生できるならば血の契約から解放され、竜の聖地へ戻る事が出来るのでは・・と私はこの考えに至った時、喜んだのだ。しかし、竜を千年もの間眠らす為に私は全ての魔力を使い果たしてしまった。今現在では、竜をもう一度甦生させるだけの魔力をもつ人間は皆無だ。
やはり私のように特殊な、そう贄になりうるほどの魔力をその身に宿したものでないと・・・。あの優しい竜を救いたい。彼を聖地へ戻して上げる事ができるならそれは、何千年もの間、苦しみの中で我らを見守ってきてくれた竜への恩返しになるだろう。だが私が今出来る事は、それを可能にする為の魔術式、そして次世代に生まれてくるであろう、生け贄の魂、それを可能にできるだけの魔力を持つ子供の力を媒体にし、竜をもう一度甦生させる方法を確立させる事。私は生涯をかけてこの事柄に取り組もう・・・。
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半分ほど日記を読んだ私たち3人はしばらく言葉もなく1冊の本を見つめていた。まさかこんな事情がユフテスの王家に隠されていたとは・・・。リディアの頭の中でパズルのピースが嵌まって行くように謎が溶けて行く。だが、まだこれだけではない。ユリウスはきっとその生涯をかけて甦生させる為の方法を編み出し、次代の生け贄の魂をもつ子供が生まれるまで、この本を封印したのだろう。早く続きを読みたい。リディアは逸る心を押さえきれずにいた。
ジェラルドもまた明かされた事実に驚愕の色を隠せずにいた。伝説の竜・・本当にそんなモノがユフテスに眠っていたとは・・この事実はリディアと同じくユフテスの内情や歴史を調べてきたジェラルドは納得した。さほど大きくもなく、軍事力や、資源を多く持たないユフテスがこれまで安穏としてこれた訳を。だが、最近カイルは積極的に様々な国とユフテスの優れた織物を使った交易をはじめていた。彼はこの事を知って準備を初めていたのだろうか?
ただ一人、キルケは他の二人とまったく違う事柄を考えていた。