33話:遠い記憶2

人間界で魔術師ギルドに登録し、なおかつ裏でアルファスの事を調べる傍ら仕事をしていた時、俺はジェラルドと出会った。
「腕の良い魔術師を探しているんだが・・・。」そいつはその場にそぐわない雰囲気をもった男だった。
「金がかかっても良いってんなら、特別なの紹介しますぜ、お若いの・・」
「腕が確かなら、金には糸目を付けない。」そういって男は懐から、金貨の入った袋を取り出し、開けて見せた。
ごくっと喉をならす音が聞こえた。人間というやつは欲が深い。だが、ここでアルファスを探し出すには金は必要不可欠だ。俺は、地上に降りてきてから、人の生活というものを十分に堪能していた。
「こりゃあ、気前が良い事で・・腕の良い・・というなら、キルケ、あいつがここいらじゃ、飛び抜けて腕の良い魔術師ですぜ、まあ見た目はちょっと、アレですが、あいつならどんな依頼でもこなすでしょうよ。丁度ほら、あそこにいますよ。」と男が揉み手をしながら俺に向かってあごをしゃくった。

人間ごときに俺があごで使われるなどとは忌々しいが、その男になんとはなく、興味があったので、大人しく出向いてやった。
「アンタが、キルケか?やけにちっこい男だな・・・」開口一番、そいつは俺に向かってそう言いやがった。自分に自信を持ち、上からものを言う事に慣れた人間、俺はそうそいつを評価した。むかつく事を言う奴だが性根は悪くない。きっと良い育ちをしているのだろう。
「俺は、ジェラルドだ。宜しくな。」そういって奴は手を差し出してきた。
俺は奴の手を力を入れて握り返してやった。が、表情ひとつ変えない。食えない奴だ。

「・・・それで、依頼というのはなんだ?」場所を変えて俺たちは向かい合って座ると、気を取り直して聞く。
「ん〜、ちょこっとユフテスの事を調べて欲しいんだよね・・」ユフテス・・なにか気に入らないフレーズだと最初に思った。そうだ、あいつをたぶらかした女の名前に似ているんだ・・。最初、俺は詳しい話を聞く前に断ろうかとも思ったのだが、やはり何とはなく気になって仕方がない。むかつくが、そのまま話しを聞く事にした。
塔の中に閉じ込められているという人間の話、そしてその国の大まかな事柄を聞くうちある確信ともいえる思いが俺の中で広がった。アルファス、お前は其処にいるのか・・?

その晩、俺はすぐさま、ユフテスというちっぽけな国に入り、王宮へと侵入した。確かにあの男が言った通り、城は幾つもの魔法を組み合わせたかなり強固な護りがしてあった。とはいえ、俺にとっては大した事ではなかったが・・。城に入った時、懐かしい匂いが俺の鼻をかすめた。やはり・・・しかし腑に落ちない。このまま城をつぶしてやつを引きずり出そうかとも考えたが、その日はそのままアステールへと戻ってきた。

まだ時間はある・・急ぐ事はない。そう自分に言い聞かせて。本当は俺は怖かったのかもしれない。あいつに会うのが・・・自分自身どうにもならない苛立を押さえて俺はジェラルドの前では、お人好しの魔術師を演じ続けた。それなりの情報を提供し、続けてユフテスの内情も探ってやった。

しばらくしてまたユフテスの城を訪れた時、以前よりも城の護りが弱くなっている事に気がついた。あいつが眠っているらしい地下へと続く魔法陣の敷かれた部屋で面白そうな本を見つけたので持って帰ってきてやった。あの娘の子孫とやらが書いた本は幾重にも厳重な魔法が掛けられており、その緻密な魔法に俺は少なからず驚いた。人間にもこんな奴がいるのか・・・と。
いろいろあったが、本を解呪し、中身を読んだ俺は、約千年前に彼の気が途切れた理由を知り、またこの人間の考え出した新しい術を吟味した。

確かに可能だった。論理的には・・・しかし、いくら贄の核を媒体にするとはいえ、この術を使うにはその辺の術者が何人束になってやろうが出来ないだろう、それこそ俺ならば可能だが・・だが俺は、あいつを憎んでいる、俺との約束を破ったあいつをこの何千年かの間殺したい程憎んで来たはずだ・・・。

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