29話:不穏な影

「その情報は間違いないんだろうな?」
「はい、確かなことと存じます。間違いなく、ユフテスの王城には伝説の竜が眠っていると・・」
「ふふ、そうか。それはそれは、きっと陛下もお喜びになることだろう、なあジルベスター。」
「さようでございますとも・・、圧倒的な魔力を持ち、国を守護するという伝説の竜を必ずや手に入れましょうぞ・・・。」
「手はずは整っているのか?」
「優秀な魔術師と、兵の精鋭を取り揃えております。ユフテスの王子の成人の儀にまぎれて、竜を我が国に移転させ、魔術結界の中に閉じ込めます。」
「なるほど・・面白い、楽しみになってきたな。早く・・会いたいものだ、その伝説の白い竜とやらに・・・。」

__________________________________________

約束の3日後、ジェラルドとリディアは連れ立って、キルケが待つという郊外の茶屋に出向いた。中にはいるとおやじが声をかけてくる。

「おう、ジェラルド、キルケならまだ来てねーぞ。ん?誰だ、その美人さんは?お前のコレか?」おやじはゲハゲハと笑いながら小指を立てる。
リディアは親しげな茶屋の主人とジェラルドの様子を驚いたように見ていたが、からかわれて、ほんのりと赤くなったジェラルドの頬を不思議なものを見るように見つめる。
(こんなジェラルドの様子、初めて見たわ。いつもはおちゃらけて人の事をからかってばかりなのに、あのジェラルドが他の人にからかわれているなんて・・。)

ジェラルドはごまかすように声を荒げて言う。
「うるせーな、おやじ、なんでもねーよ。それよりキルケが遅刻するなんて珍しいな・・・。あられでも降るんじゃねーか?」

と、その時勢い良くドアが開かれた。驚いたように3人が目をやるとそこには、
『キルケ?!』おやじとジェラルドの声が仲良くはもる。リディアは唖然として店の入り口に立っている子供に目をやる。子供・・・そう、どう見ても小さな子供だ。
年は9つか10歳ぐらいに見える。長い睫毛に縁取られた大きな目は金色だ。ちょっと癖のある薄い茶色の巻き毛は所々くるくるとおでこやほっぺにかかっている。小さな鼻と愛らしい赤い唇。そしてその子はピンクのリボンに苺柄のフリフリのドレスを身にまとっている。
この女の子が・・・キルケ?

キルケは顔を真っ赤にしながら店内にずかずかと入ってくるとむくれた顔で、面々を睨みつけ、低い声で言った。「何だよ・・。なんか文句あんのか?」
ジェラルドとおやじは明らかに動揺しているように見える。「キ、キルケ・・・お前・・女?!」ジェラルドが言い終わるかどうかと同時にキルケがジェラルドのすねを蹴り上げた。
「いってっ、つーか、お前どうしたんだよ。お前がいつも来てるローブ、厭、それよりも、その格好・・。」どうやらジェラルドは混乱している様子だ。キルケは優秀な魔術師だと聞いていたが、こんな小さな女の子だとは思っていなかった。いや、魔術師は幾らでも外見を変える事が可能だと聞くから実際はもっと年をくっているのかも知れないが・・・。

キルケは下を向いて小さな声で呟く。「あいつにやられたんだ・・。くそっ、ジークフォルンの奴、今度あったらぶっ殺す・・・」異様な殺気が漂っている。
望んでこの格好をしている訳では無いという事か・・・?似合っているのにもったいないとリディアは思う。ふわふわの巻き毛に美しい金の瞳。リディアは言葉も無くこの金色の子供を見つめていた。むくむくと欲が湧いてくる・・・・欲しい!こんな妹・・・

キルケはふっと上を向き、照れくさそうに「遅れて・・すまなかった。色々・・とあってくるのが遅れた。」と言った。
「あ、ああ・・構わないが。」とジェラルド。
「ところで、そちらのお嬢さんは?」とキルケが下から上目使いでリディアを見つめる。ああ、どうしよう、すっごい可愛いんだけど。リディアもまだ16歳になったばかりで、可愛い物には目がない。そういう意味ではジークフォルンと良い勝負だろう。
「可愛い!」そういうとリディアはキルケを抱きしめた。

 

           前のページへ  / 小説Top / 次のページへ