24話:後悔と傷

「カイル様!どこへ行っていらしたのです!」居なくなったカイルをずっと探していたのであろう乳母と幾人かの従者達が駆け寄ってきた。
「カイル様!」乳母が息を飲む音がやけに大きく響いた。僕は連れ帰ってきた少年を前方に押しやり自慢げに言った。
「ほら見て!本当にばあやの言ってた通りだったよ。見て、この子、僕にそっくりなんだよ! 僕の兄弟ってこの子の事なんでしょう?!」
彼はいきなり城に連れて来られ、沢山の人の前に出された事に戸惑いを憶えているようだった。その場の雰囲気を察したのだろうか、少年が言った。「あの、僕・・・何かの間違いです。ごめんなさい。帰ります。」そう言って彼は繋いでいた手を振りほどき踵を返した。

「あ、まって!」僕はあわてて彼の服の袖を引っ張った。びりっと音を立てて破ける。それは王家の者が着るような服では到底なかった。
「ご、ごめん・・、でも替わりに幾らでも僕のお洋服をあげるから帰らないで!」
その時だった。僕の背から父の咎める様な声が耳に入ったのは・・
「何をしている、何の騒ぎだ!」父上の声に僕はびくっと体を震わせた。少年も驚いたように目を見張って父上を見ていた。

「お前は・・・」父上は少年を見て明らかに驚いた様子で、そしてきつい目で僕を睨んだ。「カイル・・お前が連れてきたのか・・?」
「は、、はい。あの、でも、、父上、彼は僕の・・」父様は一瞬悲しげな顔をしたが、すぐに僕を引き離し、兵に連れて行くように命じた。
「まって、まって父上、その子は悪くないんです。僕が!」兵に連れられて離れて行く時に見た彼の脅えた顔を今でも忘れられない。

父は僕に何も言わなかった。何度か彼の事を聞こうとしたが、父はそれをお許しにはならなかった。また僕に、彼の事を告げた乳母は解雇され、二度と合う事は叶わなかった。僕は間違った事をしたのだろうか?風の噂で塔の事を耳にした。警護が増やされ、外に出る事すら叶わなくなった弟の事を・・・。自分に何の力も無い事がこれほど悔しかった事はない。
どんな事情であれ、弟を見捨てた両親と何も出来ない自分自身が許せなかった。
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明け方、カイルは暫くの仮眠を取ると、起きて窓の外を見やる。そうだ、僕にはやらなくては行けない事がある。カイルは呼び鈴をならすとメイドを呼んで朝食を運ばせた。眠気が冷める濃いコカの茶を飲み、パンを飲み込むように詰め込むと、城の魔術師長であるグレインを呼ぶように命じた。まずは一つずつ布石を張って行かなければならない。優秀な駒はいくつあっても足りないという事は無いのだ・・。カイルは不敵な笑みを浮かべた。

ユフテスに変革が訪れようとしていた。

 

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