23話:夜明け

「次にその花が花開くまで・・・か」カイルは呟いた。いつの間にか、夜が白々と明けていた。
夜が明けるまで、カイルは自分が幼かった頃の事を思い出していた。

僕と彼は同じ母の胎内で時を過ごし生まれてきた。生け贄の魂を持って生まれてくるといっても、他の子供となんら変わりはない。ただその証である背に刻まれた文様を除いて。
母は、生まれたばかりの弟の背を見て狂わんばかりに泣き叫んだそうだ。死ぬ事を初めから予期されて生まれた我が子。ユフテスに嫁ぐ者たちはすべて、その婚姻の前に誓いと共にユフテスの国を支える守護の竜の事を学ぶのだ。何千年に及ぶ歴史と共に・・。

血を分けた弟に名が与えられなかったのは両親の弱さにもあった。いずれ生け贄として死んでしまう子供なら、最初から居なかった者と思えばいい・・そう、生まれた子供は一人だったのだと。そして彼は王家からその名前ごと存在を抹殺された。彼は、その生け贄となるその日まで、塔の住人となり、幼い赤子を育てる為に年老いた老夫婦が雇われた。

初代女王である娘、名をユフティアと言ったか、、彼女は、こんな現実を望んでいたのだろうか・・。昔はどうであれ、今の人々は宗教の象徴としてぐらいにしか竜を知らない。確かに数千年に及ぶ間、この国が竜の加護を受けてきたのは疑い用もない。様々な災厄やもめ事から竜はその身を削りながら守ってきたのだ。

だが、神殿の祭祀長や、国の重臣達が言う通り、永き眠りから目覚める竜をまた何百年もの間生きながらせる為に生け贄を捧げるのは間違っている。竜をないがしろにしている訳ではない、だがどうしてもこの決定はカイルに取って受け入れられるものでは無かった。

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そう、あれは僕が7つの時、世話をしていた乳母がうっかりと隠されていた秘密を漏らした事がきっかけだった。それまで僕は自分に兄弟がいるとは知らずに育ってきた。父が箝口令をしいていたからだ。慌てて取り繕おうとした乳母から無理矢理その兄弟の事を聞き出した僕は城を抜け出して塔へと向かった。

その頃、僕たちが子供だった事もあるが、塔の警備はそれほど厳しくはなく、彼も一日に何度かは見張りの中で外へ出る事が可能だった。初めてであった僕の片割れ・・・僕と同じ顔をしたその男の子は僕をその深い翠の目で不思議そうに眺めた。

僕は嬉しくて、監視の目をすり抜けて彼を連れて城に帰ったのだ。その後、僕の取った浅はかな行動がどんな結末を生むのか考えもせずに・・。

 

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