22話:ユフテス創世記2

娘を喰らった竜はその後も王宮に残り、娘の生んだ子供達の幾世代かが王になる毎に民を導いて行くための知恵と知識を授けた。またその偉大な魔力を使い少しずつ地を浄化し、またその地で豊かな実りができるよう尽くした。その竜の噂は諸国の噂となっていた。

国は繁栄して行くがそれと半比例して竜の心は病んで行く。千年ほどの時が立った頃だろうか。竜の体はまた弱り始めていた。偶然なのか・・その時期と比例して、王家には始祖の娘が持っていたのと同じ美しい魂をもった者が生まれていた。竜の力が弱まると同時にその国に危機が起った。未曾有の大飢饉だった。

竜の持つ力と知識を失う訳にはいかないと、王は大切な生け贄を高い塔の上に幽閉し、何も知らされないその子供が成人になる前に、竜に生け贄としてその身を喰らわせた。それから、王家には何代か事に、生け贄の魂をもつ者が生まれ、竜にそれらの子を喰わせ竜を長らえさせてきたのだ。贄の者はある者は恐怖故に発狂し、ある者は生きた屍のようになっていた。

そしてまた何百年かの時が流れ、4代目の美しい魂を持った子供が生まれた。
その子は幼い頃から聡明で美しく賢い子供だった。またその子は生まれながらにして大きな魔力と魔術の才能を持ち、その才能を開花させていった。
その頃弱った竜は人前に姿を見せる事もなく、長い間城の地下にてうずくまっていた。竜は生け贄の魂をもつものを喰らう事で延命こそはしてきたが、その心は徐々に荒み歪んでいった。
その時代の王であったモルデバインは、聡明な王子を塔に幽閉することなく、だが、王家と竜が築いてきた国の事を幼い王子に言い聞かせた。

王子は言った。
「では、その竜は今も城の地下で眠っているのですか?なんだか可哀想です・・・。」幼い王子の瞳から涙が溢れていた。
王子は成人し、王家の宝と秘密が眠る地下へ行く事を許可され、白き竜と対面した。
竜はうずくまったまま薄く目を開くとその王子を見た。
ーーお前の魂はあの娘と同じ色をしている・・お前が小度の生け贄か・・・?我は、、もう人を喰らってこの浅ましい体を長らさせえたくはない。娘との契約故、王家に生まれる者を我は守護してきた。だが、我は・・・ーー王子の脳裏に竜の声が響いた。

王子はゆっくりと口を開き、竜に向かって言った。
「伝説の白き竜よ・・・あなたの御身は私たち人の宝です。私たちの勝手な願いだと分かってはいますが、貴方を失うという事はこの世にあるどんな宝を失うより大きな事です。あなたの為なら私のこの命は惜しくはありません。ですが、貴方の心は私たちの身勝手な願いに苦しみ、荒んでいる。もし私を喰らったとて、そのお心はもっと深い闇に閉ざされるのでしょう・・・。

優しき竜よ、ならばあなたを一時の眠りにつかせましょう。私の魔力を持って貴方の心が少しでも癒される様・・永き良き眠りを・・・。」

王子はその魔力を使い竜を永い眠りへと誘った。
「この魔法が切れるのは千年の後、この花のつぼみが花開くまで・・・」

 

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