25話:キルケの災難1
ジェラルドと別れた次の日、キルケは例の本を持って魔術師ギルドを訪れていた。ここは世界各地から訪れた魔術師達が、魔法具、薬や希少な魔法石、薬草などを取引したり情報をやり取りするアステール国内最大の会堂だ。その為毎日沢山の魔術師、商人などが出入りしている。
「あらあ。キルケちゃん、お久しぶり〜♪」会堂に入ろうとすると後ろからやたらと声の高い声が響いた。振り向くとおかっぱ頭にピンクのベレー帽をかぶり、やたらと派手な薔薇の刺繍を施した上着を纏う筋肉隆々の男が嬉々としてキルケに近寄ってきた。キルケはその猫の様な目を細めるとおもいっきり顔をしかめて呟いた。「ゲッ・・ジークフォルン!」
ジークフォルンはキルケと同じくある意味に置いて裏社会では知る人ぞ知る人物だった。幅広い商いをしており、普通では手に入らない禁忌とされる魔道具や稀少生物などを扱っているオカマだ。遭いたくない奴にあってしまった・・。何故かキルケはこの筋肉質のオカマに“私の子猫ちゃん”と呼ばれ猫可愛がりされているのだ。
「ううん、もう!キルケちゃんったら相変わらず可愛いのね〜ん。ほらっ、そのいけてないフード取ってアタシにそのぷりち〜なお顔を見せて頂戴?あ〜ん、もうこのぷりっぷり!」
すぐに逃げようと思ったが小柄なキルケはすぐにジークフォルンの胸に抱きしめられ身動きが取れなくなってしまった。「は、離せ!」真っ赤になってキルケはもがくが、もがけばもがく程、ジークフォルンの分厚い胸の中にすっぽりと収まって行く。
「だ、大体お前、こんなところで何してるんだ!」キルケが怒ったようにむくれる。
「なんでって・・・そりゃあ商売だわよ〜。素敵な殿方をメロッメロにさせる秘薬を売って欲しいって常連のお客さんに頼まれて、今届けてきた所なの。キルケちゃんこそ、魔術師ギルドに何の御用?珍しいじゃない〜?こんな所まで出かけてくるなんて。」
キルケはうざそうに答える。「私的な用事だ・・・。ともかく離せ!ジークフォルン」
「ああん、もう、つれないんだから〜。でもそう言う所もス・テ・キ!」ぶちゅっとキルケの額にキスを落とすとしぶしぶジークフォルンはキルケを抱きおろした。「何するんだ、お前は!」キルケの額には真っ赤な口紅がついている。ローブの端でごしごしとこすると、キルケはさっさと逃げ出す事に決めた。「ともかく、今はお前に付き合ってる暇はないんだ、それじゃあ・・な・・」というとキルケは足早に会堂の中に入って行った。
「あ、待ってよ〜キルケちゃん!」追いかけようとしたジークフォルンだったが、彼の胸から何かが、がさっと音を立てて落ちた。
「あら・・・何かしらこれ・・?なんだか古い本ね〜?魔石が何個かついてる所を見ると魔道書かしら。さっき抱っこした時に落っこちたのね。フフ・・なんか強い力を感じるわ、この本。これってずっとキルケちゃんが持っていたものよね?あ〜ん、だとしたらきっとキルケちゃん、この本を取りにもどって来るわね・・・うふふ。」不気味な笑いを残して、ジークフォルンは本を大事そうに包み込むとその場を去って行った。