20話:眠れない夜

重い足取りで自分の部屋へと戻ったカイルは、室内を見回す。半年間、帰っていなかった割には埃ひとつ無く、綺麗に整頓なされている。カイルが帰ってくるのに合わせて、メイド達が掃除をしたのだろうか。中に入るとカイルは口元を引き締めたまま、室内から続く隣の部屋の鍵を開けた。そこは、小さな小部屋だったが、中央には立派なマホガニーの書斎机が置いてあり、部屋の中には所狭しと本が積み上げられていた。

書斎机の一番上の鍵のかかっている引き出しを、また小さな鍵で開く。そこには、“ユフテス創世記”と書かれた一冊の古い本が入っていた。
本を取り出し、暫くの間表紙をじっと見つめる。窓から穏やかな月の光がカイルの姿を照らしていた。「満月・・あと一ヶ月か・・」その顔が苦悩に歪む。窓の外を見やると同じく月の光に照らされた塔がひっそりと佇んでいるのが見えた。あの塔は・・・僕たちの罪の象徴だ。

カイルはどんっと、拳を机に叩き付けた。「神は僕に罰を与えようとしているのか・・?あの時、弟を見捨てた僕にもう一度同じ、いやそれ以上の苦しみを得よと・・否、何のために今まで僕は・・くそっ、まだだ、まだ時間はある。この一月以内にきっと・・」

不意にカイルの脳裏に親友のジェラルドと、もう一人、幼い頃に出会ったアステールの姫の顔が浮かんだ。そうだ、、彼らが居る。あの二人が以前からこのユフテスに密偵を送り込んできているのは知っていた。8年前、この国を訪れ、僕の魂の片割れと出会ったりディアーナ王女、そしてジェラルドも・・彼が何の目的でユフテスの内情を調べているのか定かではないが、きっとあの王女に関係しての事だろう・・。

彼らは使える・・だがこの事は内密に慎重に進めなくてはならない。カイルは頭の中で考えられる得策のうち様々な事柄や条件を推察、整理していく。彼らは自分の18歳の儀式に正式に招待されている。式典の1週間前には、諸国からの使者や諸候達が続々と集まってくるだろう。その頃になると自分も動きが取りにくくなる。

「もう少し、情報が必要だな・・」そう言うと羽ペンを暫くインクに浸し、何やらしたため始めた。そして一息ついて、自分の書いた物をもう一度注意深く読み返すと、鍵のかかる上段の引き出しにそれをしまい込む。

そして、机に出したままの1冊の本を手に取り、ゆっくりと開いた。
ーーユフテス創世記ーー全てはここから始まったのだ。

 

           前のページへ  / 小説Top / 次のページへ