19話:ユフテス王城
ーーーユフテス王城ーーー
時は遡って1ヶ月前カイルは王族18歳の成人の儀式の為、国へと帰ってきていた。
「お兄ちゃま、お帰りなしゃい!」最初に出迎えたのは、母の違う年の離れた異母姉妹だった。
腕に飛び込んできた妹を優しく抱きとめる。「やあ、ルーシェル、しばらく見ないうちに大きくなったね。」ルーシェルはユフテス王の第二則妃が生んだ末の妹姫で、カイルもこの年の離れた異母姉妹を可愛がっていた。
「おにいちゃま、あのね、ルーシェル、最近ちゃんと読み書き出来る様になったんだよ!おにいちゃまも今度見に来て?!」ルーシェルはカイルに抱きついたまま離れずにこの半年の“ご報告”をしてくれる。カイルは苦笑しながらもルーシェルの柔らかい髪をなぜていた。
「ルーシェル様、カイル様は遠路はるばる帰ってこられたばかりでお疲れですよ。さあ、このばあやと一緒にお部屋へ戻りましょう?カイル様には日を改めてゆっくりとお会いなされませ。」ルーシェルつきの乳母が言い聞かせる様に彼女の小さな手を引っ張った。名残惜しそうに何度も手を振りながら幼い異母姉妹が乳母やに連れられて部屋に戻って行くと、王の側近であるジュダがやってきた。「お帰りなさいませ、カイル殿下。早速で申し訳無いですが、王がお待ちしています。どうぞこちらへ・・・。」カイルはすっと顔を強ばらせると、小さく頷いてジュダについて王の間へと向かった。
「カイル、、戻ったか。さあ、こちらに来て顔を見せてくれ・・・。」玉座に座る年老いた顔のユフテス王がカイルを手招く。その横には、カイルの生母であるアンドレア妃が王に寄り添う様に座っている。王妃の目には薄く涙が浮かんでいた。
「父上、母上、只今戻りました。」そういって、カイルは臣下の礼を取り、王の足下に跪く。
「形式的な礼は良い・・・リザルでの其方の高評価、こちらまで届いておる。優秀な跡継ぎをもって儂は鼻が高い、、のうアンドレアよ?」王妃もカイルを見ながら頷く。
「もったいないお言葉にございます。」そこでカイルは目を上げて王と王妃に顔を向けた。
「本当に大きくなったものだな・・・。お前もあと1ヶ月後には成人の儀を迎え、儂の跡継ぎとして広めがなされる。それから・・だが・・・」そして王はそこでちょっと間を置いて深くうめくと続けて言った。
「お前の誕生日と合わせて、竜の儀式を行う事と相成った・・・。」びくっとカイルはその体をふるわせた。
「父上・・・それは生け贄の儀式の事にございますか?ですが今はまだっ・・!」カイルの悲痛な叫びを切る様に王が告げる。「予言の花が咲いたのだ・・・。もうすぐあれが、伝説の竜が目覚める時が近い。塔の周辺には警護を増やしておいた。カイルよ、お前も覚悟を決めてくれ・・。」王妃は袖で自分の目元を覆い隠し嗚咽している。
「私に・・・もう一度、血を分けた弟を見殺しにせよと仰るのです・・・か・・?」小さく自身を呪うかのようにカイルは呟く。ぎりっと噛み締めた唇から一滴の血が滴り落ちた。