18話:晩餐の終焉
暫くの間、沈黙の空気が流れる中で二人は黙々と出される食事を口にしていたが、最初に口火を切ったのはジェラルドだった。「僕に何か聞きたい事があるんじゃないのかい、リディア・・?」
湯気のたったミディアムレアの子牛のフィレ肉を切りながらリディアが答える。
「そうですわね・・、率直に申し上げると、ユフテスの王子の事ですわ。確か、御学友でいらっしゃられるのでしたわね、カイル王子と。」
「そうだね。君もご存知の通り・・?」にやっと笑う。
「もっとはっきり言ったらどうだい?君らしくないね、リディア。本当に知りたいのはカイルの事・・いや、塔に囚われの王子様の事かな?」
肉を切っていたリディアの手が止まる。眼を上げたそこには挑む様な青い光があった。肩を軽くすくめるとジェラルドが続ける。
「知らない訳ないだろう?君が幼い頃からあれだけ執着している王子の事だ。」
リディアはジェラルドの青い瞳を見据えながら言った。「ジェラルド・・・兄様は、どこまでお知りになっているのですか?」
「・・久しぶりだね、、そう呼ばれるのも。リディア・・。そろそろお互いのカードを見せ合っても良いのではないかい?君は、こういった事には向いていないよ、僕と違ってね。」
リディアはゆっくりと息を吐き出すとクスリと笑って言った。
「昔から兄様に隠し事はできませんでしたものね。兄様は、、私の味方・・だと思っても良いのかしら?」
「さあ、、どうだろうね・・・。だが僕は昔と変わらず君の事を第一に考えている事は事実だよ。それが味方かどうかと聞かれれば分からないが。僕を信用するかどうかは、君の判断しだいだよ、リディア。」ジェラルドは答えていった。
リディアは意を決意した様に少しずつ、自分がユフテス王家の内情について調べた事や手に入れた謎の本の事についてジェラルドに話した。
「ーーなるほど、その本については興味があるな。ふむ・・では僕の方も手を明かそう。君が調べた一通りの事柄については、大体こちらでも承知している。それとは別に僕個人で調べていた内容だが・・」
ジェラルドは淡々と今日仕入れたばかりの情報をリディアに分かち合った。
「では、そのキルケという者がその本の解呪をしているのですね?」ユフテスに関わる2冊の本、それにはいったいどんな秘密が隠されているのか、リディアは逸る心を押さえつつ言った。「兄様、3日後に私も連れて行ってもらえますか?私も知りたい・・・その本に一体何が書かれているのか。もし少しでも手がかりがあるのなら・・・」
ジェラルドは黙って頷いた。ここまでの流れは予想範囲内だ。掴めないのはやはり、最近のカイルの動向か。奴はいったい何をしようとしているんだ?
「わかった、一緒に連れて行こう・・・キルケは・・時間にはうるさい奴だから遅れるなよ?」自分の事は棚に上げてリディアに釘を刺す。
3日後・・ユフテスに行くまで新たな手がかりが見つかるのだろうか・・・、そして晩餐の夜は深く静かに更けていった。