13話:密会1

どれくらい時間が経ったのだろうか。考えながら歩いているうちにいつの間にか目指す場所についていた。アステール帝国の城下町サングルウッド。その外れにある幾分小汚い茶屋の中ですでに目的の人物は座って目前に置かれた茶をすすっていた。

「ーー遅い。」いかにも魔術師といった黒いローブを頭からすっぽりと被り、不思議な金色とも見える色合いの、まるで猫の様な瞳を持った男はすっと目線だけをジェラルドに合わせ低く呟いた。

「わりーな、待たせちまって。おやっさん、俺にも一杯レント茶をくれ。それと、なんかうまいもんでもあったら二人分見繕ってくれるか?」

「はいよ!まかしときな!」と店の奥から威勢の良い声が返ってくる。この店の親父は元熟練した傭兵で、怪我が元で引退した後は何を思ったのか町外れであまり儲からない茶屋を始めた。ジェラルドとは街の飲み屋で出会い意気投合したのだが、彼が傭兵を止めてこの店をやる様になってからは、ちょくちょく顔を出してはあまりうまいとも言えない食事を頼んでいる。だが、彼の店は客が少ないといった意味でも、あまり人に聞かれたくない類いの話をするのにはうってつけで、店の親父もその所はよく心得て、度々奥の個室をジェラルドに提供していた。

「お前な、、、さして明るくもない部屋ん中でその不気味なローブ被るの止めとけよな?なんか見てるこっちが暗くなるっての・・」ちょっと呆れたように目の前の男に促す。

「うるさい・・・これが一番落ち着くんだ。」そう言って男は下を向く。
「まあ、いいけどさあ。で、例の件、どうだった?何か収穫はあったのか?」ジェラルドの声に真剣味が帯びる。
「ん〜、そうだね、収穫っていうか、色々分かってきたよ。厄介な事も含めてね。」

ジェラルドは厳しい目を男に向ける。目の前にいる男の名はキルケと言った。だが実際の所それが本名なのかは分からない。ユフテスの内情を調べるために雇ったこの男は優秀な魔術師兼情報屋として裏の世界では名のしれた男だ。フードからちらりと見えるその顔は意外にも少年と言って差し支えの無い様な幼い顔立ちをしている。だが、魔術師を外見だけで判断する事はできない。彼らは年齢、容姿を変える事ぐらい朝飯前なのだ。

「厄介な事ね、、まあなんでも一筋縄じゃー行かないってことか・・で、詳細は?」
キルケはにやりとジェラルドの方に黙って手を差し出す。
「ちっ、抜け目ねーな。幾らだ?」
「そうだな・・あと5千ってとこか?」
「ーーえらく吹っかけるな・・?それはかなり信用できる情報なんだろうな?」
運ばれてきた食事を目の端でちろっと眺めてキルケは舌なめずりすると、おもむろに手を伸ばし蒸かした芋をほおばった。
「もぐっ、、まあ、、こいつを手に入れるのにはかなり苦労したからな・・それでも随分と安い方だ。」そういってキルケは懐から重々しい装飾の中に紋章のついた本を取り出した。

「なんだ、それは?」ジェラルドがいぶかしげに尋ねる。
「ユフテル王城の地下に何十もの魔法陣で封印をなされた部屋がある。そこから取ってきたんだ。」キルケは事も無げに言うと、ジェラルドに本を手渡した。
「だが、、その本にもややこしい封印が掛けられている。解読するのに、まだ数日は必要だな。ざっと調べたが、無理矢理開けようとすると消滅するような仕掛けになっている。」

ジェラルドはその本を手に取って見る。表紙には線密に描かれた魔法陣の様な物と4つの石が埋め込んであり、その中心には白竜が翼を広げたユフテル王家の紋章があった。
「その本は、おいおい調べるとしても、他にもちょっと気になる事があってな。」そういってキルケは一度話を切る様に茶をすすったのだった。

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