12話:姫君の憂鬱

リディアは、次々と祝いの口上を述べてくる貴族達や、自分に向けられる好奇の視線にうんざりしながらも、表面的にはにこやかにこの上なく優美な仕草でそれらの人々をやりこなしていた。
父様も父様で周りからの明らかな娘への賛辞を受け流しつつにこやかに対応している。

ふと中央サロンへ目を向けると見知った顔がこちらを見ていた。深い青地に銀の縫い取りが施されているエストラーダの正装を纏ったジェラルド王子。ここ数年、顔を合わせても不可解な行動をとるジェラルドにリディアは不満と謂われない恐怖心を抱く事が多くなった。幼い頃から自分を妹の様に可愛がっていてくれていたジェラルドの明らかな態度の豹変にどう接して良いかわからないのだ。

エストラーダの礼服を来たジェラルドはとても美しかった。彼の吸い込まれる様な青い瞳に見つめられ、自然と頬が赤く染まるのが分かった。いつもと違う彼の視線にどぎまぎする。
(な、、何考えてるのよ、私。あれはいつもおちゃらけて私を馬鹿にする奴よ。そりゃあ昔はお兄様の様に慕っていたけど、最近のジェラルドは何だか怖い・・・)

人ごみを縫ってジェラルドがこちらにやってくる。もう一人彼の後をついてやってくる青年がいる。誰だろう・・・?どこかで見た事があるような気がする。

「やあ、リディア、今日は社交界デビューおめでとう。いつものお転婆姿と違って、着飾るとそれなりに見られるもんだね?孫にも衣装ってやつかな。」にやっと笑ってジェラルドが軽口をたたく。

「・・・貴方って人は他にもうちょっとましな事が言えないの?!」まったくこんな奴にどぎまぎした私が馬鹿だったわ・・!リディアはちょっとむくれてジェラルドを睨んだ。

「はは、冗談だって。気にするなよ。そうそう、こいつ、知っているだろう?ユフテスの第一王子のカイルだよ。」
その言葉にはっとして彼の後ろに立っている青年をまじまじと見つめる。ユフテスの王子・・・そうか、そうだ。確かに幼い頃に出会ったカイル王子の面影が残っている。まだ少年ともいえなくもない金色の髪とはしばみ色の瞳に映る自分を見ながらリディアはゆっくりと口を開いた。

「ユフテスのカイル王子・・・・お久しぶりでございます。一度父上と一緒に御国を訪問した際にお会い致しましたわね?」

「ええ、本当に、憶えていて下さってうれしい限りです、リディアーナ姫。そうですね、約7年ぶりでしょうか・・?本当に輝くばかりにお美しくなられましたね。」数々の賛辞を聞き慣れているリディアだったが、あの少年と同じ・・・いや、双子の兄弟の見惚れる様な美貌を持つ青年にそう言われ、手に口づけを受けると、また引いたと思った頬に赤みがさした。

周りから先ほどとは違った刺のある視線を受ける。ジェラルドとカイル王子を慕う貴族の姫君達の視線が痛い・・・。当たり障りの無い社交辞令と会話を済ませると彼らはあっという間に取り巻きの女性達に囲まれて行った。
リディアの脳裏に先ほど見たカイル王子と少年の面影が重なる。双子というからには、彼も17歳になっているはずだ。心臓が痛くなるほど、ドキドキと胸の奥が鳴り響いた。

そんなリディアを遠くから意味ありげに見つめる二つの視線に彼女は気付いていなかった。

 

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