4話:お別れと旅立ち

3人で仲良く朝ご飯を食べた後、私たちはこれからの事について話し合った。
今日の午後、お母さんの身体は火葬されお墓に埋葬される手はずになっている。葬儀屋さんの車は11時にうちにくる事になっているそうだ。
ギャバ猫お母さんが言った。「今更だけど、、私本当に死んじゃってたのね。ちょっとショックだったわ。ギャバ猫と一緒の身体になるなんて・・ほんと変な感じなのよ。私は私だけど、ギャバ猫でもあって、ギャバ猫の生まれてから今までの記憶もある。これってちょっとした2重人格っぽいわよね・・ギャバ猫の意識が前に出ているときは関西弁になっちゃうし。私は猫の目を通して二人を見てるの。でも人型になったときは私の意識の方が強く出るみたい。といってもちょっと混じってるんやけどなあ・・」
確かに今のギャバ猫お母さんは関西弁といつものお母さんの喋り方が混じってなんだか面白い。

「これから・・・どうするの、お父さん?」私はお父さんに問いかけると、ギャバ猫お母さんが、きっぱりと言った。「あら、決まってるわよ。アメリカに行くんでしょう?」
ギャバ猫お母さんの言葉に私とお父さんは吃驚して顔を見合わせた。
「え、でも・・お母さん死んでしまってお父さん、アメリカ行きを辞めようとしてたんだよ?」
「どうして辞めちゃうの?行けばいいじゃない。うちもアメリカ見てみたいわ〜。」そういってギャバ猫お母さんは手の甲をぺろっと一なめして耳の辺りをごしごしこする。
ああ、やっぱり人型になっても猫の習性は変わらないんだ・・。
「でも・・涼子さん、本当に良いのかい?」
「良いも何も、私楽しみにしてたのよ。私が死んだからって辞めなくても良いと思うんだけど・・それに私の魂はこうして戻って来た訳だし、このまま日本にいても、ご近所のおばさん達は私が死んでしまったのを知っているから、まさかこの姿であう訳にも行かないしねえ・・」と、ギャバ猫お母さんは尻尾と耳をふるふるさせてお父さんに言い募る。
「分かった、じゃあ、もう一度研究所に問い合わせてみるよ。」なんだかんだ言ってお父さんはお母さんの言う事を優先させるのだ。
「美香流はいや?アメリカに行くの・・・」ギャバ猫お母さんが私に問いかける。
「ううん・・こうしてママとギャバ猫が一緒になって戻って来てくれたし・・でも、アメリカにいってもその姿のままじゃ、人前にはでられないと思うよ?」

「そうにゃのよ〜。まだまだ練習が足りないわねえ。すぐ疲れちゃうし。ま、どっちにしろ私は裕幸さんと美香流と一緒にアメリカに行きたいわ。」
そうして私たち二人と1匹半のアメリカ行きが決まったのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の午後私はギャバ猫を抱いてお母さんの身体にさようならを告げる。お母さんの身体は塵に帰ってしまったけれど、本当のお母さんはここにいる。私はぎゅっとギャバ猫を抱きしめて、お父さんと一緒に岐路についた。
私たちがアメリカ行きを決めた事に近所や親戚のおじさん、おばさんは驚いていたけれど、お母さんが亡くなったこの家にいるのは辛くて、アメリカへはそれを忘れるために行くのだろうと勝手に納得してくれた。

あっという間にアメリカに行く1週間前になり学校でも私を励ます会と、お別れ会がクラスで開かれた。みんな気を使ってくれているのがわかるが、私があんまり悲しくはないんだよって言ったら吃驚するだろう。だってお母さんは私たちと一緒にアメリカに行くのだから!
仲の良かったクラスメート何人かと最後の土曜日にファミリーレストランでもう一度お別れ会をして、アメリカに行ってもメールのやり取りをする事を約束する。
優里ちゃんや、薫子ちゃん、みんなとお別れするのは寂しいけど、アメリカはすごく楽しみでもあった。仲が良い友達は、また日曜日に空港まで見送りに来てくれた。

「あれ?美香流ちゃん、飼い猫も一緒にアメリカにつれていくんだ?!」籠の中に入ったギャバ猫を見て一人が声を上げた。
「うん、そうだよ。だって、ギャバ猫は私たちの大切な家族なんだから!」私とお父さんは目を見合わせてにっこりと笑う。
最初、ギャバ猫は貨物扱いで飛行機に乗ることを嫌がってどうしても人型で乗って行くときかなかったのだが、まだ変化は耳と尻尾がとれないし、ママの姿にしか変化できないのだから、他の人がびっくりしてしまうと言いくるめ、アメリカに着いたら特大のステーキをご馳走するからと言ってやっと納得してもらった。今もギャバ猫は籠の中でふてくされている。

こうして私たちは長年住み慣れた日本の地を離れ、アメリカへと旅立った。

           前のページへ / 小説Top / 次のページへ