番外編:愛する君の為に8
「ありがとう・・・シャロン。あなたの存在に私がどれだけ救われているか・・貴方の夫や娘にまで慣れない土地で苦労させてしまって本当に申し訳ないわ・・・。」
「もうそれ以上言ったら怒りますよ、姫様。私たちは納得して付いて来ているのですから・・これから姫様がどのような方の元へ嫁がれようと、私たちはずっと一緒ですよ。」
ーー本当に、お可哀想な姫様・・。生まれた時から蝶よ、花よと育てられた反面、姫様の周りに集まってくるのは全て姫様の外見ばかりを気にする男ばかり・・姫様が男嫌いになられたのも無理はない。私の母がずっと姫様と、弟君の乳母をしていた関係で私は、姫様と一緒に育った乳姉妹だった。数多くいる他の姫君とは違い、下々の私たちの事まで気にかけてくれる姫様、誰よりもお美しいのにそれを鼻にかけず、いつも慎ましく生きて来られた姫様がこんな仕打ちを受けるなどと・・・本当に誰が考えただろうか。
表向きはいくら、数多くの求婚者達の中から姫様の相手を選ぶといっていても、実際は、より多くの金を差し出したものが姫様を得るのだ、それがどんな年寄りだろうが、不細工な輩だろうが・・。姫様は何も言わずにそれを受け入れられたが、内心どんなにかお辛い事だろう・・。願わくば・・姫様を娶られる方が姫様の内面を見て、大切にしてくれるお方だったら・・・
「あまり長く浸かっているとさすがに湯あたりするわね。そろそろ出るわ。」そういってロザリアは立ち上がった。蒸気で少し赤く染まった肌が何とも言えず艶かしい。まるで神の作った最高傑作の彫像のようだ。シャロンは同性だが、それでも毎回その美しい肢体には見惚れてしまう。
着替えを済ますと、ロザリアはサロンの長椅子に横たわった。涼しい風が吹いてくる。瞬く星と月を眺めながらそこでもう一度考えを巡らす・・私の運命の星とやらの事を・・・
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始業式が行われ、ほとんどの生徒達は既に講堂に集まっていた。初日はこれから、各自自分の取った科目により、移動教室になるので、クラスルームを確認する為に、多くの生徒が行き来している。学院では、学年により、制服の色が違ってくる。初年度は、赤、2年目は緑、そして最上級は青だ。
ギルロイはあくびをしながら校内をたらたらと歩いていると目線の先に見知った顔を見つけた。
(あれは・・・昨日ホテルであったセルム達の従者・・・?)
その男は最上級の制服を纏う男と何やら話しをしている。何やら学院に似つかわしくない雰囲気だが、少し立ち止まってその二人を見ていたら、セルムの従者がこちらに気がついた。
慌てて立ち去って行く。上級生の方はつかつかとやって来ると俺を睨みつけた。
ふとその顔を見て見覚えがある様な気がする。何処かであったか・・・?
「お前、今年入って来た新入生だな。こんな所で何をしている?」そいつが偉そうに言う。
「別に、校内をふらふらしていただけだ。」そういってギルロイは相手を睨みつけた。
びくっと相手がその視線にたじろぐ。「ふ、ふん、ともかくここはお前のような奴が入って良い区画じゃない!ここは最上級生の、しかも選ばれたものしか入れない一画だ。さっさと立ち去れ!」
そんなものがあるとは聞いた事も無いが・・・と思いつつもギルロイは軽く首をすくめると言われた通りに歩き出した。別にこいつに興味がある訳でもない。ただ少し気になるのはセルムの従者が何故こんな所であの男と話をしていたかという事だが・・・。まあ、後で寮に戻ったらセルムに聞いて見るか。
実は校内をうろうろしている間に、校舎とはかけ離れた場所に来ていたのは事実なのだが、帰り道がさっぱり分からない。また適当にうろうろしていると、今度はレイモンド達に出会った。
「あれ・・・ギルロイこんなとこで何やってんの?」レイモンドが目を丸くして問う。
「迷ったんだ。お前達こそこんな所で何をやっている?」
「私たちは、明日からここで、トーバスの練習があるのですよ。」と横から、従者のカルキンが口を添えた。
「ああ、そうか、なるほど・・」トーバスとは大陸の昔からある球技の一つで各チーム5名ずつが各チームの持つ魔道石の入ったボールを指定時間内に追いかけ、相手チームのボールをコートに入れるのだが、魔道石の入ったボールはそれ自体、意思があるかのように動き回り捕まえずらい。しかもそれを、棒のついたネットで虫を取るかのように走り回って追いかけるのだ。
「僕たちもこれから戻る所だったんだ、一緒にいこう。」そう言って3人は歩き出した。