カルテ2:空(から)13

「・・・次回、話してやるよ。今日は先生の話でほとんど終わっちゃったしな。」確かに時間を見ると1時間を過ぎようとしていた。
「そうですか・・ではお楽しみは次回までとっておきましょう。」
「まあ、楽しいと思うかどうかはわかんねーけどな。でも、先生の同級生が言ってた事、少しだけど分かる気がする・・。確かに妙な雰囲気持ってんだよな〜・・・・」そういって珍獣でも見るようにじろじろと見つめられる。
「妙な雰囲気ですか?そんな事を言われたのははじめてですが・・」
「ん〜、よくあるじゃん?フェロモンみたいなもん?なんか変な香水でも付けてる?」
「・・・何か匂いますか・・・?」部屋にはリラックスを促すアロマオイルというものが三村君の趣味により焚かれているが、私は一切香水の類いは付けないのだ。
「いや、別に。何も匂わないけどね・・・例えだってば、まあいいや、俺南口の入り口で女待たせてるからそろそろ行くよ。来週もこの時間で良いんだっけ?」

「え〜っと、来週ですか?じゃあ、受付で三村君に確認してもらえますか?」
「分かった。じゃあ、またな、先生、来週も楽しみにしてるよ。」
「はあ・・・」と私は曖昧な返事を返す。通常、カウンセリングでは、まず相手の話を聞いて返答するのが常設だが、彼の言動や態度には確かに興味をそそられる。振り回しているのか、振り回されているのか・・・ともかく興味がつきない。
受付で三村君をからかいながら支払いを済ませる彼を遠目に見ながら考えていた。からかわれて怒ってはいるが、三村君の態度も大分軟化したように見える。やはり先ほどのケーキが功を奏したのだろう。侮りがたい・・というかやはり面白い男性だと思う。今度はじっくりと彼の話を聞いて見たいものだ、そうそう、先ほど女性を待たせていると言っていたか・・。
彼と三村君、そして私が出会ってからまだ1週間。元々の事の起こりは彼の女性問題からはじまったのだが、もう新しい女性と付き合っているのか・・。もてると言っていたのは確かなようだ。節操がないのか、興味が無いのか・・?出て行った彼を窓から眺めていると三村君がつかつかと歩いて来て言った。

「センセ、今度の彼との個人カウンセリングは来週の火曜日の午後2時からですよ。一応いつも通りスケジュールに入れときますが、センセも忘れないで下さいね。」
私はちらりと三村君を見やると、笑って聞いてみる。
「そういえば、三村君、随分和田さんと打ち解けたようだね。最初はあんなに嫌がっていたのに。」と、じろりと彼女に睨まれる。
「センセ・・・・私はあくまでも業務的に彼に接している訳で打ち解けた訳ではありません。大体私はあーいった軽い男の人は苦手なんです!」

「ふうん、そうなのかあ。でも向こうは君に興味があるようだけどね。」
「無理ですね。」一言で切る。
だが、あの和田という男は中身はともかく、見た目などは今時のもて男というやつではないのだろうか?一般的にあーいったタイプがもてるというのなら、彼女はどんな男性が好みなのか・・聞いてみる事にした。
「三村君はどんな男性が好みなんですか?」いきなり質問したのが悪かったのか、三村君が私の顔を見て目を白黒させている。
「な・・なんなんですか?!センセ、いきなり」
「嫌・・・和田さんのようなタイプがもてるタイプだと聞いたんだが、君はまったく惹かれている様子もないし、としたらどういったタイプが好みなのかと思って・・」

「・・またいつもの、何でも知りたがりの癖がでたんですね、センセ。先ほども言った通り、ちゃらちゃらしている男は好きじゃないんです。私が男性に求めるのは・・こう、なんというか1本筋の通った芯の強さの中に垣間見える優しさが・・って何を言わせるんですか!」

「あれ・・説明してくれるんじゃなかったんですか?」
三村はしばらく顔を赤くして私の顔を見ていたが、しばらくするとため息を付いて一言言った。
「もう、いいです!もうまったく違う事ばっかり話してこんなに時間が過ぎちゃったじゃないですか!もうすぐいつものクライアントさんが来られる時間ですよ!応接室に置いてある紅茶とケーキのお皿、片付けますから・・・!」

ふむ・・・なぜだかわからないが怒らせてしまったようだ。どうも最近三村君のご機嫌を損ねる事が多い。だが、女性の心と言う物は男性のそれよりも遥かに複雑で難解なのだから仕方あるまい。私は自分でそう納得すると。彼女を手伝いに応接室へと戻った。

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