81話:風6

「よし、じゃあ俺たちはグランディスの奴らの後を追おう!手分けして探すか?!」ジェラルドが提案する。だが、ジークフォルンがそれをとどめるように話し始めた。
「待って頂戴。どうせ今から追いかけても逃走経路ぐらいは最初に確認してるでしょうよ。それよりも、まずは竜が何処に転送されたか・・そして竜を攫ったのであれば、次に狙ってくるのは・・・」
『生け贄か!』幾人かの声が重なる。
「そうよ。竜は目覚めたばかりでとても弱っている。何千年もの間まともな食事さえできていないのよ?捕えた所でどうするかしら・・・?まあ、もしかしたら手っ取り早く他の人間を喰わせるという暴挙にでるかもしれないけど、十中八九、竜の事を知っているのなら、それに対する生け贄の秘密もある程度知っているでしょうね。だとしたら、とりあえず先に彼を確保しておいた方が良いかと思うのだけど・・・。警備を増やしたとて、城への侵入をこうやすやすと受け入れているぐらいですもの、塔の警備なんてもっと簡単に突破できるんじゃなくて?」

「それは・・・」カイルが言いよどむ。確かにジークフォルンの言う事は正論だ。まさかこう簡単に竜を略奪されるとは思ってもいなかった。読みが甘かったと言う他はない。
「じゃあどうしようっていうんだ?」
「それを今から提案するところだったのよ。まず、キルケちゃんは、予定通り、儀式が行えるように待機して頂戴。調べたい事については、先に子猫ちゃんに案内してもらってからで良いわよ。あと、他に使えそうな魔術師も選んでおいてね。ああ、それにしても子猫ちゃんが二人!麗しいわね・・ふふ。あ、王子様はとりあえず、王のところへ向かいなさい。

それから、ジェラルドちゃんには、これからちょっと手伝ってもらいたい事があるから、残ってもらうとして・・リディアちゃんとカルナには、塔の中の坊やの救出に向かってもらうわ。」

「え?」驚いた顔のリディアにニッコリとジークフォルンは微笑む。なぜだか全てを見透かされる様な目だった。
「救出・・保護ともいうわね。彼は私たちにとっても無くてはならない大切な鍵なの。あなたとカルナは彼を塔から連れ出した後、家に戻っておいて頂戴。心配しなくても大丈夫よ?カルナとなら、彼の救出ぐらいなんて事は無いわ。それから私は、竜の・・居場所を突き止めるわ。という訳だからカルナ、しっかりお姫様を守って上げるのよ?!」
「へいへい・・・」

「つーか、なんでリディアが救出に行くんだ?!」ジェラルドが不機嫌そうに呟く。
「あなたにはやってもらいたい事があるって言ったでしょ?」そしてすっとジェラルドに近づくと小声で言った。「男の嫉妬はみっともなくてよ・・?」
ジークフォルンはパンパンと手を叩くと言った。「さ、ぐずぐずしてないでそれぞれ行動をおこしてちょうだい!時間を無駄にするのは賢いやり方じゃなくってよ!」
いつの間にかジークフォルンが司令官のようになっていたが、皆彼に圧倒されたように大人しくしたがっていく。その様子をオースティンは驚いて眺めていた。
くいっと手を引っ張られ、オースティンは自分をひっぱる弟たちとさして年の変わらなさそうな美しい少女に視線を落とす。猫のような大きな金色の瞳に飲み込まれそうになる。

「行くぞ!案内しろ」
「あ、、うん。」兄上はすでに部屋を退出して王の間へと言ったようだった。
ついいつも幼い弟妹にするように手を出す。キルケは訝しげにオースティンを見上げたまま、肩をすくめるとその手をとり一緒に歩き始めた。

「じゃ、俺たちも行くか、お姫さん?」
「あ、あの・・・あなたがジークフォルンさんの息子さんなんですか?」
「あ?ああ。そんな事はどうでもいいがちゃっちゃと行って終わらせようぜ。」カルナはリディアをいきなりぐいっと抱きかかえたまま窓を開けると、まるで猫のようなしなやかさであっと言う間に下に降りた。こういった扱いを今までされたことがないリディアは硬直してしまっている。窓の上からジークフォルンの声が響いた。
「カルナ!そっちの事は任せたわよ!リディアちゃんをしっかり守るのよ?」
「わかってるって!それよりもこれが終わったら・・」そういってジークフォルンと同じく心配顔で窓から身を乗り出すジェラルドを挑戦的に見すくえた。空中で火花が散るように二人の視線が絡み合う。が、次の瞬間カルナはリディアを抱えたまま飛ぶようにその場を立ち去った。

「さて、あんたはあたくしと一緒に来てもらうわ・・・ジェラルドちゃん」
悔しそうに秀麗な顔を歪ませてジェラルドが低く呟く。「・・・どこへ?」
そんなジェラルドの様子を見ながらジークフォルンは考える。まだまだこの子も子供ね。こんなに感情をむき出しにできるって若いわ〜。でも・・それだけ心の余裕がなくなって来ているってことかしらね・・・?
「まあ、とりあえずつきて来なさい!」

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