78話:風3

その頃、キルケはジークフォルンと一緒に城下町を歩いていた。
「キルケちゃん、竜の聖地に戻ってきたのね?気の巡りがよくなっているわ。」
「ああ。短い滞在だったがな・・。それにしても、この地上にきてから長い付き合いなのに俺はまったく気がつかなかった。」そういってキルケはジークフォルンを見上げた。
「ふふ、愛情の差かしらね、あたくしはすぐに分かったわよ?キルケちゃんの人型も可愛いけど、やっぱり黄金の竜体が一番美しいわね。」ジークフォルンはそう言って笑う。
「・・・。」いやな感じがしてキルケはジークフォルンから顔を背けた。

「やだ、まったくもう!キルケちゃんは昔っからつれないんだから・・さて・・と、ちょっとキルケちゃん手伝ってもらえる?皆が帰ってくる前にうちの馬鹿息子を先に捕獲しとかないといけないわ。まあ、大体行き先は見当ついてるのだけど・・・。」
「さっきからずっと気になっていたんだが、あの男、ちらっと見ただけだが、あの入れ墨はもしかして北の民族の?」

「あら・・・、よく知ってるわね。そうよ。あの子はあの民族の生き残り。あの子の父親、昔のあたくしの思い人だったのよ。本当に強くて男前で最高にいけてたのよね・・。20年ちょっと前の大戦であの子の民族は蛮族と呼ばれて皆殺しにされたのよ。酷いわよね、人間ってのは本当に・・。その中でも最後まで勇敢に戦ったのがあの子の父親よ。生まれたばかりのカルナを預かってね、自分に何かあった場合は育てて欲しいって頼まれたのよ。惚れた男の頼みを聞かなきゃやっぱり女じゃないわよね?!」

「てか、お前・・・生まれたときから男だろうが・・・」
「いやぁね、キルケちゃん、私の心は100%ピュアな乙女心よ!あの子も小さい時はママって呼んでくれてすごく可愛かったんだけど、大きくなるにつれて可愛さも半減しちゃったわぁ・・」ジークフォルンは眉根を寄せて呟く。
キルケは内心ジークフォルンに育てられたというカルナと言う男に同情を覚えたが、ジークフォルンによると、カルナは随分グランディスにある事無い事含めて情報を流しているらしい、となれば、確かにさっさと捕獲する方が良さそうだ。
「で、そのカルナという男、どこにいるんだ?」
「あの子がよくクライアントとの交渉に使っている宿がこの先にあるのよ。十中八九そこにいると思うわ。」

宿屋に入ると、そこの旦那らしき男がジークフォルンの姿を認めて顔をだす。
「これは、旦那!どうしたんですかい?」
「ジークフォルンはいるかしら?」
「はあ、先ほど戻られてましたよ。何があったのかすごい顔を貼らして機嫌も最悪に悪かったですがね・・・」といってちらりとジークフォルンを見る。たぶんそれを誰がやったのかわかっているんだろう。
「そう、じゃあ、悪いけどちょっと借りるわよ。すぐ終わると思うから・・・」
「へい!」カルナよりもジークフォルンの方が怖いのだろう、すぐに返事をして奥へと引っ込んだ。ジークフォルンはにやりと笑うと宿全体に術をかける。魔法でカルナが逃げられないようにしているのだろう。それが終わると二人はカルナがいるという2階の右端の部屋をノックした。
「おやじか?なんだよ。さっき暫く邪魔すんなっていってただろ!」と戸を開け様に怒鳴ったカルナの顔が引きつる。きっとジークフォルンの姿が悪魔にでも見えているに違いない。

「カルナ・・・逃げられないわよ。大人しくしておいたらキルケちゃんの手前あまりお仕置きをしないで置いてあげるわ・・」ジークフォルンの言葉にカルナがゴクリと唾を飲んだ。
結界の張られた部屋の中で、カルナは洗いざらい、グランディスとの関係を吐かされていた。
「ふん・・ということは、あちら側も一つの勢力って訳じゃなさそうね。」
「そうだと思う、俺は皇帝につくイルディアス将軍と、魔術師のくそじじいと両方に情報を売っていたからな。」とカルナが肩をすくめる。
「まったく・・今度は無いと思いなさい?カルナ」にらみを利かせてジークフォルンが釘を刺す。大げさに首をすくめたカルナはあまり懲りていないのか、それよりも!と念を押して来た。
「絶対やらせてくれるんだろうな・・・?あいつと?」
「ああ、ジェラルド王子?大丈夫よ。ちゃんと言ってあるから。その代わり全部終わってからにして頂戴ね。それよりも他に何か隠している事はないでしょうね?」

「ん〜、大した事は無いぜ、あ、そうそう、あのくそじじいとグランディスの魔術師が俺の事を警戒してんのか、2〜3回刺客を送ってきたけど、暇つぶしに2人は殺して、一人はまだしぶといから生かしてあるけど・・?」
「はあ?!あんた、まったくその獲物をいたぶる悪い癖は直しなさいって言ってるでしょ?じゃあ、一人はまだ生きてるのね?ちょっと聞きたい事あるから後でうちの方につれて来て頂戴!」
「お前が言うか・・・?俺よりジークフォルンの方がよっぽど質が悪いと思うがな・・」聞こえないように小さく呟いたカルナだった.

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