74話:話し合い1

ボワッとした青い光に包まれたキルア達一行は無事ジークフォルンの屋敷についた。
「気持ち悪い・・・・」ルークが青ざめた顔でうつむいている。
「大丈夫か?」「大丈夫?」ジェラルドとリディアが真っ青な顔のルークを脇から支える。
「移転酔いだろう、たまにいるんだ、こういう奴。」キルケは呆れたようにルークを一瞥する。
横からジークフォルンが「治して上げましょうか?」と言ったが、ルークは青ざめた顔ですくっと立ち上がると、キルケに向かって言った。
「ぼ、僕は大丈夫です。こんなのどうってことありません!うぷっ」
「あーあ・・無理しちゃって・・ま、でも本人が大丈夫っていうんならいいだろ、ところでジークフォルン、ここはどの辺にあたるんだ?」

「ああ、ここ王都ファーレンの市街区の一画よ。王城からは少し離れているけど、大した距離じゃないわ。窓の外を見て? あれがユフテス王城、そして周りの小高い丘に無数に並ぶ大小のテント、幕屋は今回のカイル王子の成人の儀式に呼ばれた各国からの使者が滞在しているわ。
本当ならあなたたちもあれらの幕屋に滞在することになったのでしょうけど、とりあえず、10名ぐらいなら、うちの屋敷を使ってくれてかまわないわよ。」

リディアは黙って、ユフテスの王城を眺めた。目頭が熱くなってくる。幼い頃に一度見た古いが優美で美しい古城とそして、その奥に広がる暗くて大きな森。彼の森の向こうにあの人が閉じ込められている塔があるのだ。
「とうとう、やって来たのね・・・」リディアが呟いた。

「さてと、あまり感傷に浸ってる時間はないわよ。ちゃっちゃっと説明して、貴方達を王城に送り届けるわ。挨拶、しなければならないでしょう?」

「ああ、カイルにも俺たちが着いた事を知らせなければ!」
「そうね・・・」ジークフォルンはぐるっと皆を見渡すと、リディアとジェラルド、そしてキルケだけを残して他の者を部屋の外に出させた。ルークは最後まで抵抗していたが、ジークフォルンに抱きしめられながら下の応接室に連れて行かれると目を白黒させながら大人しくなった。
部屋へ戻ってくるとジークフォルンは3人の顔を見渡して言った。
「さて・・いきなり色々な事が起って貴方達も驚いているかと思うけど、もう一度挨拶するわ。あたくしは、ジークフォルン。しがない商人・・と言いたいところだけど、そちらの僕ちゃんは信じてくれなさそうだから、ぶっちゃけて言うと、あたくしキルケちゃんの大親友なの!」

(どこがぶっちゃけだ、どこが!)キルケががくっと肩を落とした。
仕方なくキルケがフォローを入れる。さすがに、異能者や竜だと言ってこの二人が納得できるとは思えないからな・・・「こいつは、商人だが、凄腕の情報屋でもあり、例の件についても知っている。信用出来る奴だ。ジークフォルンには、ユフテスの城に潜入する時に色々と手伝ってもらった。それに城の内情にもかなり詳しい。」嘘と真を織り交ぜながら二人に説明する。

「いいよ、キルケちゃんのお友達なら私信用するわ。」とリディアがにっこり笑って言った。
ジェラルドはまだ少し疑い深くこちらを見ていたがため息を吐いて肩をすくめ、先を促した。

「まず、状況から簡単に説明するけど、先日、ユフテスの城の地下で眠りについていた竜が目覚めたの。まだ完全に覚醒したわけではないんだけど、それで、城の中心部は大騒ぎよ。一刻も早く生け贄の儀式をしようとしている。でも、今は王子達がそれを先延ばしにしようと頑張ってるわ。それで、本題なんだけど、今日貴方達を襲ったうちの義理の息子、カルナっていうんだけど、私が調べたユフテスに関する内密情報をどうやらグランディスに売り飛ばしてたみたいなのよね。ああ、言わないで、管理がなってないというか躾がなってないのは分かってるわ・・。

色々言いたいことと聞きたい事があるのはわかるけど、とりあえず最後まで話を聞きなさい。あなたの狙いは塔にいる王子を救いだしたい・・ということでしょう?そしてグランディスの狙いは竜の捕獲、そしてユフテスの中心部分でも色々と動いているのよ。
私の個人的な意見を言わせてもらうと、はっきり言って、この地上で竜が人間の勝手な思惑で取引されるのは我慢ならないの。キルケちゃんに聞いたけど、竜を聖地に戻せる手があるのなら、一刻も早く手を打たないと・・そう、グランディスやユフテスが行動を起こす前に!」

「・・・確かに、今竜の存在が明らかになればそれを奪おうとする国々もグランディスだけでなく出てくるだろうな。宗教の象徴にもなってるし・・。しかしユフテスはどうして其処までして急いで生け贄の儀式とやらをしようとする?しかもこんな時期に?!」

「其処なのよね・・・。王子達はどうやら感づいておかしいと思ってるみたいだけど、祭司と幾人かの魔術師が王を煽動して儀式を執り行おうとしてる。やつらが実際何を考えているのか、あたくしにもちょっとわからないけど、、、。もしかして、竜の心の臓を食べれば不老不死になるとかっていうあのデマを信じているわけでも無いでしょうにね〜・・・」

「何だ・・それは?」キルケが不愉快そうに問う。
「商人の間で、真しやかに囁かれている噂よ。誰が流したのかは知らないけど・・色々なバージョンがあるのよ。どんな病気も治るとか・・ね。

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