71話:再会

第一応接室を出た後、暫く黙ったまま4人兄妹揃って歩いていたが、クルトとルーシェルは乳母達が部屋へと連れてかえり、カイルとオースティンが残った。
「兄上・・・先程は・・」オースティンがいいずらそうに声を上げた。
「オースティン、偉かったな。よく我慢した。」
「兄上・・」実際のところ、もしあの時、兄上が入って来られなければ、この国の王子としてしてはならない失態を犯していたかもしれない。グランディスの将軍の飄々とした態度につい我を忘れて叫びそうになった。だが、グランディスがどう関与したにしろ、それに乗ったのは浅はかな母だ。あの時、本当に兄上が来られて胸をなで下ろしたのは事実だった。

「グランディスのあの将軍はなかなか油断なら無いな・・それに部屋の端にいた魔術師、怪しい感じがした。父上が密かに付けさせてはいるだろうが、用心にこした事はない。」そういってカイルは眉をひそめた。
「はい。ところで兄上、竜の儀式はどうなったのですか?」
「先ほど応接室へ寄る前に確かめて来た。祭司らは明日の朝に儀式を施行すると言っているが・・・」そういってカイルは黙り込んだ。もう、とっくに着いていても良いはずのジェラルド達がまだ着いていないのだ。道のりの途中で何かあったのか・・心配が尽きない。もし、彼らが明日の朝までに間に合わなければ・・・。苛立を押さえるようにカイルは頭を振った。

「明日の夜には前夜祭があるというのに、明日の朝に儀式を施行するなんて・・なんだか急ぎすぎてはいませんか?兄上・・・普通ならどう考えても明日より、全てが終わって皆がそれぞれの国にかえってからやるのが筋だと思うのですが・・・」

「そうだ。いくら月の花が咲いて竜が目覚めたとはいえ、竜はまだこの王城の地下で半分眠りについている。急ぐ必要もないはずなのだが、そう言っても祭司達は明日やると言って聞かない。」

「何か、おかしいとは思いませんか、兄上?」

「ああ、私もそう思っていた所だ。どうにもこの件について急ぎすぎている。目覚めた竜には近づこうともしないのに、儀式だけをやけに急がして執り行おうとしている。父上は祭司長らの言いなりだしな・・、とりあえず、もう一度父上の所に行って儀式の延期を頼みに行こうと思っている。お前も一緒に来るか?」
「あい、兄上、私もお供致します。」そういって二人兄妹は王の執務室へと向かった。

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時を少し遡って、海岸の町からユフテスの城下町に至る街道の途中でオーセは通行人たちをチェックしていた。そろそろ、ジェラルド達がこの辺りを通るだろうと目測を付けてはっているのだった。しばらくすると、馬車の車輪が回る音と何匹かの馬の蹄の音が聞こえて来た。
「来たか・・・」オーセはにやりと笑う。

そして道ばたに仕掛けておいた爆竹に火をつけようと呪文を唱えたその時、何者かが後ろからぐいっと引っ張り思いっきり殴った。オーセの身体が勢い良く吹っ飛ぶ。だが、火をつける短い詠唱は終わっていたので爆竹が破裂し、その音に驚いた馬達がパニックに陥った。
パン!パンパン! パパパパパ〜ン!
騎士が乗っていた馬達は激しく揺さぶりをかけられ、振り落とされたり、走り出した馬を必死に止めようとするものとで、酷い有様だ。
馬がいななき勢いよく走り出した馬車の中でジェラルド達は突然の事で驚く間もなく激しく揺れる馬車の中で舌を噛みそうになりながら馬を止めようと身を乗り出したが、その途端、馬達は金縛りにでもあったかのようにその場に崩れ落ちた。馬車もその場で動きを止める。

キルケの目線の先・・馬車の前には忘れようとしても忘れ得ない人物が立っていた。
「ジークフォルン!」キルケが叫んだ。
「まったく煙たいわ〜。せっかくのお洋服が埃まみれになっちゃうじゃない・・。」ぶつぶつと自分のド派手な洋服をはたきつつジークフォルンが近づいてきた。
「な?お前、どうしてここに・・・」言いかけてキルケははっと口を紡ぐ。ミルセディの言葉が頭をよぎる。=キルケ、くれぐれも失礼の無いようにな・・分かっているとは思うが相手は・・=

そんなキルケの様子を不思議そうに眺めながらジークフォルンが口を開いた。
「ごめんなさいね〜。なんだかうちの馬鹿が悪戯したみたいで・・今ちょっと制裁して来た所だったんだけど、少し遅かったわねぇ・・・あなたたち大丈夫だった?」
馬車の中から、ジェラルドとリディアーナが一緒に降りて来た。リディアーナは先ほど揺れた馬車の中で頭を打ち付けたらしく、少し涙目になっている。
目敏くリディアーナに目を留めるとジークフォルンは一層甲高い声を張り上げる。
「まあああ、可愛い!やっぱり女の子はいいわね〜。うちの馬鹿とは大違いだわ。あらあ、頭を打っちゃったの?ちょっとこっちに来なさい〜。」そういってジークフォルンはリディアーナを引き寄せると、癒しの呪文を唱えた。

ジェラルドはいきなり出て来たド派手な男を目を白黒させて見ている。後ろの方からマリアベルやルークも駆けつけて来た。それらの様子を見ながらジークフォルンは満足そうに微笑んだ。

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