68話:悩める者たちの懺悔

母上が国家機密を他国へ売り飛ばしていた容疑で捕まったのは2日前だった。
「なにをするの!離しなさい!私を一体誰だと思ってるの?!嫌!」
突如部屋に入ってきた兵達によって母上は拘束される事となる。グランディスとやり取りしていた証拠物件、情報と引き換えに得た宝石などを取り上げられ、身柄は一旦城に4つある塔のひとつへと拘束された。まだ、囚人と一緒に牢獄へ閉じ込められるよりはいくらかましだろう。もちろん気位の高い彼女にとっては死に等しい屈辱かもしれないが・・・。僕の耳をつんざく様な悲鳴と鳴き声がずっと耳について離れなかった。

母上の裁判は2週間後に定められた。今は兄上の成人の儀や様々な事が交錯しており、事を荒立てる訳には行かないという理由と、他にもとうとう彼の竜が目覚めたと言う事で、城の中枢部の人間達はより忙しくしていたのだ。
オースティンはベランダから城の塔を見上げる。暫くそうしていると、後ろから声がかかった。
「こんな所にいたのですね、オースティン殿。」そういって僕の元へゆっくりと歩いて来たのは敬愛する兄上の母君であり、ユフテス王国の正妃でもあらせられるイネスタ王妃だった。
僕は一歩引いて、臣下の礼をとる。同じ王族と言えども相手はこの国の正妃、礼儀は守らなければならない。

「良いのですよ・・オースティン殿、楽にして下さい。それよりも・・・貴方は大丈夫なのですか?今回の事については王も、私も予期せぬ出来事でとても驚いています。
たった一人の母君がこんな事になってしまって・・・いえ、起きた事は仕方がありません。ですが私も、彼女の罪を少しでも軽減できるよう、王や元老院に働きかけて見ましょう。」

「・・・もったいないお言葉にございます。イネスタ様・・・この度は不肖の母がこのような不祥事を起こしてしまい、息子として、いえ、王家の一員として詫びる言葉もありません・・。」

「貴方が詫びる必要はありません。一番辛い思いをしているのは貴方でしょうに・・・。」そういってイネスタはゆっくりとオースティンの頬を撫でた。その瞳に何か違う物を見て戸惑う。兄上と同じ柔らかで美しい瞳から止めどなく涙があふれていた。

「イネ・・スタ・・様・・・?」

「・・・・・・ごめんなさい・・何でも無いの・・。本当に罰せらなければならないのは私達だわ・・。いくらこの国を守る聖獣とはいえ、自分の生んだ息子を贄として差し出す上、あの子が生まれてすぐより私は顔さえも見る事無く・・森の中の塔に一人捨て置いた。国の法律で裁かれないとは言え、私たちのしている事は何と罪深いのでしょう・・・あの子はきっと私達、いえ私を恨んでいる事でしょう。死ぬために生まれた子を産み落とした私を・・・」

そうか・・・兄上の双子の弟であったものは王家からその名前も、存在ごと抹消されてはいるが、王妃にとっては兄上と同じく腹を痛めて生んだ子なのだ。城の者は皆その事については、知っていても貝のように口を噤んでいる。以前ふとその事を兄上に漏らした乳母が内密に解雇された事は公然の秘密だった。
其処までして、守らなければならないのだろうか、その竜は・・・?長い間竜に守られて来た国とはいえ、この千年間の間竜はずっと眠っていただけでではないか。国を護り、これまで支えて来たのは、王国皆の協力があってこそ、何故今更また竜に縋り付こうとするのかオースティンには皆目分からなかった。以前その事を兄に聞いた事があった。

ーーー兄上、どうして今更この国は竜に固執するのです?いくら私たちの時代に竜が目覚めるとはいえ、生け贄を捧げてまで守ってもらう様な、そんな軟弱な国では無いはずです。どうして其処まで父上や、重鎮達は竜を欲するのでしょう?

ーーーお前は、本当に聡いな、オースティン。確かにお前の言う通りだ、いくら竜がこの国ができる礎に関わって、ずっとこの国を守って来たとはいえ、これをずっと未来永劫続けて行くのは私もどうかと思う・・。父上や元老院、神官達にも散々その事を提議して来たが、彼らは聞く耳を持たない。竜にとっては確かに人間側の勝手な言い草かもしれないが、私は父上達が選んだ道が良い選択だとはどうしても思えないんだ・・・。

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