43話:蜘蛛の糸2

兄上は椅子の上に深く腰掛け何か考えている様子だった。入ってきたオースティンに気がつくと、にっこりと笑って出迎える。
「オースティン、来てたのか。すまない、考え事をしていて気がつかなかった。」
「いえ、お気遣いなく、兄上。それよりも、何事かあったのですか?魔術師長が何やら難しい顔で出て行きましたが・・・。」

「あ、ああ・・ちょっとな。色々とごたごたが多くて、本当に猫の手でも借りたいぐらいだ。それよりも、あの件について何か分かったのか・・・?」
「いえ、まだ・・ですが、昨晩母上の元に奇妙な来客が訪れました。」
「奇妙な来客?」
「はい。どうも密偵といった感じには到底見えなかったのですが、というのも、どこにいても目につく様な・・・」オースティンは昨晩見た男の様子をつぶさに思い出す。
「髪はおかっぱのショッキングピンクで、紫の薔薇が染め上げられたマントを羽織った大男です・・・。」
「それは・・・・確かに目立つね。それで何かその男の事について分かったのかい?」
「母上の部屋に滞在していた時間はさほど長くはありませんでした。後を付けようとしたのですが、城を出たところで見失ってしまって。申し訳ありません。」

「そうか、いや、まあいいさ、それよりもグランディスからの一団が到着した様だね。」
「はい。先ほど、城の窓から見ました。当初の予定では10名ほどだと聞いていましたが、あの数は、いったい・・・。しかもさっと気を探った感じでは魔術師も数名含まれている様子でした。」

「今朝方、グランディスから皇帝が儀式に急遽参加したいとの意を伝えてきた・・・。人数が増えるのは護衛という名目上の事と言って来ている。」
「・・・怪しいですね。」
「ああ、だからこそ、あちら側にどれだけの情報が渡ってしまっているのかを正確に確認したいんだ。大方、向こうが狙っているのは竜の存在だろうが、それに連なる儀式の事などが知られていると厄介な事になる。こうなってみれば、塔の周りの警備を父上が増やしたのはあながち間違いではなかったかもしれない・・。だが、ちょっと予想外の分子が増えてきたな。」そういって兄上は疲れたように笑った。

オースティンは兄の言葉に息を飲んだ。オースティンとて、この国の第二王位継承者として、この国の存亡に関わる竜の事は聞いている。そして塔に囚われている贄の・・・兄上の双子の弟の事も。正直自分とて、この城に竜が眠っていると聞かされたときは何の冗談かと思ったものだ。この事は王族とそして城の一部の関係者のみが知っている事実だが、それがもうすぐ目覚めるというのだ。

僕も兄上ほどではないが、高い魔力を持っている。そう、グランディスの中に潜む魔術師を見つけられるぐらいには。兄上は城の竜の事について色々と調べ、リザルへ留学してからも、たまに里帰りしては、自室の隣にある図書室に籠っている事が多かった。兄上が長い間塔の事を気にかけている事も僕はずっと兄上の事を見てきたからこそ知っている。兄上には何か策があるのだ。「兄上、僕も出来る限りの協力は惜しみません。グランディスの件についてはとりあえず僕にお任せ下さい。見張りを何名か付けておきます。」

「そうか、頼んだよ、オースティン。僕はちょっと水鏡の間に行ってくる。」そういうとカイルは立ち上がり様に伸びをするとオースティンと共に部屋を出て歩いた後、別れた。

 

           前のページへ  / 小説Top / 次のページへ