37話:竜の聖地1
人を寄せ付けない険しい山々の頂き、美しく雪化粧され氷に閉ざされた地に一匹の黄金の竜が降り立った。そこから竜がひときわ高く鳴き声を上げると、遥か空の彼方から一匹の美しい紅竜が舞い降りた。と思えばその瞬間それは燃える様な長く赤い髪をもつ人の姿へと変化した。
「キルケ、お帰り。久しぶりだね。」赤い髪の男がにこやかに笑って黄金の竜に向かって声をかけた。キルケももう一度人形に戻る。「ミルセディ、久しぶり・・といってもたかだが100年ぐらいだろ?ああ、でもやっぱりここの空気は良いな。とても澄んでいる。さっそくだが道を開けてくれ。長老に挨拶した後、お前ともゆっくり話したい。」
「相変わらず、せっかちだね、キルケは。まあいい、後でゆっくり話を聞かせてもらうよ。じゃあ、ゲートを開くぞ。」そう言って男が呪文を唱えると一瞬空間が淀んだかの様な感じがして、そして二人はその場から消え失せた。
竜の聖地は何人であろうとも、例え竜であってもゲートキーパーと呼ばれる特殊な竜の助け無しにたどり着く事はできない。
そこは不思議な空間だった。高くそびえ立つ何本もの頑丈な岩山、そしてそこを明るく照らすようにいくつもの光が行き来している。岩場には何匹かの大きな竜がいた。キルケは少し懐かしそうにそれらの風景を眺めたあと、移動呪文を唱えた。
「ミルセディ、キルケが帰ってきたのか?」他の竜が思念を送って来た。
「ああ、今長老のところへ挨拶にいっている。」
「あいつ、体の方は大丈夫なのか?いくら飛び抜けて魔力が強いとはいえ、まだあいつは幼い、あまり無理は出来ないだろう・・。」
「そうだな、ざっと見たところ少し魔力にかげりがあるが大した影響はないだろう。」とまた違う竜が思念を送る。
「・・・・アルファスは見つかったのかな・・・?」
「さあ・・どうなんだろうね・・・」
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「長老、キルケです。只今戻りました。」ひときわ高い岩の頂き近くにある洞穴の中で一匹の灰色の竜が尾を丸め横たわっていた。突然現れた金色の少女を見て竜は目を細めキルケと同じぐらいの小さな老人の姿をとると言った。
「キルケか・・よう戻ったの。地上はどうであった?」
「地上は・・・思ったよりも面白いです。様々な事を見聞きし、沢山の人間に出会いました。それから・・・。」
「アルファスを見付けたかの・・?」
「ーーはい。」
「そうか・・ではお前が見聞きした地上の様子を儂に聞かせておくれ。我が一族の最も小さき者よ。」
キルケは地上で見聞きした全ての事、ユフテスの事、そして今自分が関わっている人間達の事、そしてアルファスの事を長老に話した。
「なるほど、そうか・・眠りに・・それであの者の思念を得る事が出来なんだか・・・。ふふ、しかし人間の中にも面白い考え方をするものもおるのう。儂は幾度かの転成を繰り返し、この世界が生まれる頃より永きにわたり地上を見守ってきた。だがそろそろこの生もつきようとしておる。アルファスはこの聖地を導くものとして儂が特に目をかけ見定めてきた白の王じゃ・・一度は失のうたと思っていたあやつが地上で転成をなし、血の契約、汚れから解き放たれるのであれば、それこそ喜ばしい事だが、、」長老はここで一度ゆっくりと息を吸い込みゆっくりと吐き出した。
「我らが長く地上に影響を及ぼす事はまかりならぬ。もし今回転成がうまく往くならばそれで良し、アルファスを連れて聖地へと戻ってくるがよい。じゃが、もし、転成が上手く行かなかった場合には、あやつをこれ以上地にとどめておく事は出来ぬ・・わかるな、キルケ?」
「はい・・・長よ。」