番外編:愛する君の為に6

セルムの荷物の片付けをしながら、俺はふと不思議に思っていた事を聞く。
「そのターバン・・部屋の中でもとらないのか?」

「え?ああ、そうでしたね。大抵人前にでるときはこれを付けているのが決まりなので・・ですが別に今は必要ありませんね。」そういってセルムは器用にターバンを解いて行く。ターバンを取り去ると三つ編みを巻いた長い髪がでてきた。ギルロイの視線を受けてセルムが解釈する。
「うちの王家のしきたりなんですよ。王族は成人するまで髪を切らない事・・・髪には精霊が宿ると言われていますしね。」
俺はセルムの黒緑の髪に目をやる。「確かに・・精霊でも宿りそうな髪色だな。もちろんそんなものが本当にいればの話だが・・・」ふふんと鼻で笑う。

「おや、ギル、信じていないのですか?4大元素を司る精霊がいるからこその魔術ではありませんか・・。そんな事を仰ったらきっと教授に嘆かれますよ。それに・・私の母は、元々ゲール大陸の砂漠を放浪するジプシーと呼ばれる流れ民族の出で、その民族ではこの黒緑の髪を持って生まれた子供はとても大切にされるのですよ。この髪色は強い魔力を持つ証と同時に精霊に愛された子の証としてね・・・。
現に私の姉上も生まれた時から飛び抜けて高い能力を持っているのですよ・・・まあ口さがない連中は魔女だなんて囁いてますがね・・・」

「国の宝に、傾国の美女、それに魔女か・・・えらい勲章を付けられたもんだな、お前の姉貴も・・」

「そう・・・ですね。姉上も私も平穏とはほど遠い運命を義務づけられているのでしょう・・」
「何を言っている・・・、運命など自分の手で掴み切り開いていくもんだろ?本気で何かを得ようとするなら諦めるなよ!」

「本当にそうなのでしょうか・・・?ギル貴方は・・・?」一瞬心の奥底を覗かれた様な気分に陥った。セルムの瞳が俺の心を突き刺した。そうだ、俺も偉そうに人の事は言えないナディアの事については結局俺は足掻きもしなければ、何もしなかったではないか・・・友情を壊したくないと自分に理由をつけて。だが所詮はそれだけの想いだったのだ・・憧れ、幻想・・。自分がどんな手を使っても手に入れたいなどと思う女など現れるのだろうか・・・?

急に黙り込んだギルロイの様子を見ながらセルムはこのリザルにくる前の事を思い返していた。姉上と一緒に母方の祖母で占い師でもあるおばばの家を訪れた。暫く・・いや姉に至ってはもしかしたらもう2度とあう事は無いかもしれない・・そんな思いを抱えつつ、訪れた祖母の家で私たちは思わぬ予言を聞く事となった。
「ふむ・・・セルム、そしてロザリアよ。お前達に変化の兆しが見えておる・・・お前達は大きな・・大きな運命の星と出会う事になるだろう、そしてその星はお前達二人の運命を導く。この星は波乱と変革、その星の影響でセルム、お前には新たな道が開かれる、そしてロザリアよ・・お前にとって、この星は・・・ふふ面白いものになるかもしれぬのう・・・」

「どういう事です?ばば様・・一つの運命の星が私たち姉弟二人の運命を左右するということですか?」

「そうじゃ、ちかじかお前達はこの星と出会う事になるじゃろう。セルム、ロザリア・・変革を恐れるな。この星はお前達にとって波乱と迷いを生むものではあるが、それをどう受け止めるかはお前達次第じゃ。道を誤るな?わしは、お前達二人の幸せを願っておるからのう。」姉は、じっとばば様の言葉を静かに聞いていたが、その言葉に小さく頷いた。

「何処かの金持ちの貴族や豪商に買い取られるか・・王族だとしても、妾の一人としてお父様がなさってきたように後宮で楽しくもない人生を送るのに比べれば、私は波乱でも人らしく生きる道を選ぶわ・・・。もう男に振り回される人生なんて沢山よ・・・・」帰りすがら姉上は震えながら吐き出すように呟いた。

そして二人はこのリザルへとやって来た。ばば様は私たち二人を巻き込む運命の星についてこうも言った。お前のすぐ近くに・・・その星は現れるだろうと・・。

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