番外編:愛する君の為に12

「お前が手紙を寄越した男か・・?こんな所に呼びつけて何のつもりだ?」胡散臭そうに睨みつけながら目前の男が言った。どうやら建前上は一人で来たようだ。だがまあ、どうせ奴の事だ、影で幾人か用意しているに違いない。それはこちらも同じだが・・。ギルロイはクスリと笑って口を開く。
「つれないな、あの手紙を見て来たって事はお前もよほど焦っているんだろう・・?」
「貴様・・!俺を誰だか分かって言っているのか?!貴様こそなんだ、そのふざけた仮面は!」
「ああ、これか?なかなかの力作だろう?結構大変だったんだ。まあ、それはおいておいて、本題に入ろうか?」
「本題?」
「ああ、本題だ。その為に来たのだろう・・?俺はお前の知りたい情報を持っている。」

あれから密かに俺たちは奴の事を徹底的に調べ上げた。ジェフリー・ゴードン・モルディウス。名前だけは立派だがさる王家の血縁に当る大貴族のドラ息子だ。あいにくその家にはこいつの他、妹が一人、つまり奴が次代の家督を継ぐ訳だが・・はっきり言ってこんな奴が跡継ぎとは同情する。
無類の女好きで、片っ端から色んな女に手を出してはその後始末を金か暴力で片付けている。親父はなかなか商才があり、莫大な財を溜め込んでいるが片っ端からあいつが使っている所を見ると先はなさそうだ。実家では息子の醜聞にしびれを切らした父親が奴に婚約者をあてがい、学院を卒業したらすぐに結婚式を行う様に手はずを整えているらしい。

だが、奴、ジェフリーには本命がいた。それが、セルムの姉であるロザリア王女だ。どこで見かけたのかは知らないが、随分長い間、本国の方にも求婚の書を送っていたという。当のロザリア王女は知らないと言っていたが・・・。幾度書を送っても一向に返事がなくしびれを切らしていた奴の元に朗報が入った。王女が国をでて、有り体に言えば、身売りをするというのだ。
最初は彼女を競り落として物にする事も考えていたみたいだが、本国での式の準備は着々と進められている上、今までのように湯水のごとく金を使う事が出来ない様にされている。となると、彼女を正攻法で競り落とすのは難しいと考えた奴は、従者に話を持ちかけた。

従者ごときが一生手にできないぐらいの金と引き換えに(といっても、ロザリア王女の競りでは比較にならないぐらいの高値が予想されている)手引きさせ、既成事実を作ってしまおうとしたのだ。だが、事前にその情報がもれ、王女に逃げられてしまった。傍目にでも分かる程奴らは必死になって王女を探しまわっている。競りの日も差し迫って来ているのに、当の王女が居ないとなれば、従者の首もあったものではない。やつらは相当焦っていた。そこで、俺たちは奴らの前に餌を蒔いたのだ。

「あの手紙の内容は本当なんだろうな・・?」奴が目をぎらつかせて凄んだ。
「ああ、お前が探しているお姫様の居所だろう?知ってるぜ・・」
「・・・」
「それよりも、約束の者は?」
奴は小さく舌打ちすると手を大きく振り上げた。敷地の影から一人の男が小さな女の子を抱いて出て来た。奴らはロザリア王女のお付きの侍女のシャロンという女の子供を人質にとり、口を割らせようとしたが、シャロン自身ロザリア王女の行方を知っている訳ではない。彼女は王女を逃がしただけなのだ。だがそれを知ったロザリア王女はすぐに自分を餌に子供の救出を願ったのだ。自分の身よりも侍女を気遣うその姿勢には好感が持てた。

子供は眠っているようだった。部下らしき男が俺に子供を手渡す。眠っている子供は思ったよりも重かった。
「では、約束通り教えてもらおうか、彼女の居場所を?」
俺は予め決めておいた宿の名を口にする。奴は一瞬不思議そうな顔をしたが、念を押しつつ立ち去った。案の定、思った通り奴が去った後に、奴の部下らしい幾人かの男たちが待ち伏せをしていた。本当に芸のない男だ。
子供を抱いたまま走り出した俺の後を男たちが剣を抜いて追いかけてくる。が、すぐにカルキンが反対に奴らを切り伏せてしまった。
「口程にもありませんね。」軽々と男たちをあしらってカルキンがつぶやいた。
「ああ、それにしても、レイモンド達の方はうまくやっているだろうか?」
「大丈夫でしょう。確かに我が君だけなら、私も少し不安がありますが、セルム殿下はとても頭の切れる方みたいですし・・・。」
「そうだな・・」そう言って俺達はくすっと笑いあい、その場を後にした。

            前のページへ / 小説Top / 次のページへ