番外編:愛する君の為に11
セルムは驚いたように暫く姉の顔を見つめていたがクスリと笑って言った。
「姉さん、いや姉上も必然的に星と出会ったと言う訳ですか・・・。」
「星?」なんの事だとギルロイはセルムに目を向ける。
「なんでもありません、それよりも姉上、どうしてここへ?」
「それは・・・シャロンに逃がしてもらったのよ。」
「シャロンに?それはまた穏やかではありませんね・・。いったいどうしたというのです?」
ギルロイが椅子を差し出すとシャロンはゆっくりとその身に起った事を話し始めた。
「なるほど・・カルファが・・。そうですか。」
「だから私は信用ならないものを連れてくるのは嫌だったのよ。いくらお父様の命とはいえ・・」
「では姉上を売ろうとした相手はこの学院内にいるのかもしれませんね・・」そういってセルムは窓際に立つギルロイを見上げた。
「ああ、なんだか怪しい感じだったからな。俺をみてかなり焦っていたし。」
「そうですか・・・。どちらにしろ、姉上がいなくなった事についてあの者は必死になって探している事でしょう。私のところにも探りが入るかもしれませんね・・。どうしましょうか・・」
「寮内までは普通、寮員以外は入れない事になっているし、ここは男子寮だからな。男嫌いで有名?なお姫様がこんなところにいてるとは誰も思わないだろうよ。」
「確かに・・・穴場ではありますね。しかし、よく連れてはいれましたね?」
「まあ、裏口を使ったり、色々だ・・。」そういってギルロイはきまり悪そうに頭をかいた。
しかし、あまり詳しい事情は話してはくれなかったが、よくこの姉が一度ホテルで顔を合わせただけのギルに大人しくついてきたものだ。普段の姉からはとても想像できない。男に関してはこれでもかと、嫌な思いもたくさんしているらしく、じんましんが出る程嫌っていると言うのに。
やはり、これもばば様の言っていた星の導きなのか・・・。
「どちらにしろ、私はどこぞの国に売られる運命です。その時がくれば覚悟もしておりましたが、汚い手を使って手込めにされるぐらいなら死んだ方がましです!」
気の強い女だな・・・。最初に見た時はもっと儚く散って行きそうな風情だったのに、今日一日で随分とこの女に対する意識が変わってきた。まあ、さすがに俺も女に刃物を向けられたのは初めてだったしな。くっと薄く笑う。大きく開かれた美しい紫紺、セルムのそれよりも深いアメジストの瞳には強い意志が宿っている。その瞳を見つめていると無意識に抱き寄せてしまいたくなる。馬鹿だな、俺も・・・。
「まあ、待って下さい、姉上。とりあえず、ずっとこうして隠れている訳にもいきませんし、カルファの裏をかく方法を考えましょう。」そういってセルムはにやっと笑う。
面白そうにギルロイが尋ねる。
「何か策はあるのか?」
「そうですね、ギル、あなたにも是非手伝ってもらいたいと思ってますよ・・。あと、そうですね、できれば信用できるものが一人、二人いると助かりますが・・」そういってセルムは扉の方へ注意を促す。
俺はその視線を受け、扉の前まで静かに歩み寄るとガチャッと扉を開けた。途端バランスを崩してた折れ込んで来た者が二人・・。
「レイモンド・・・・お前ら・・」呆れたようにギルロイがレイモンドとその従者カルキンを見る。レイモンドはともかくカルキンまで一緒とは。
ぱんぱんっと埃をはたいて立ち上がったカルキンは少し顔を赤くしてきまり悪そうにこちらに目を向けた。
「すみません・・・。とんだ所をお見せしてしまいました。騎士の名折れです。」
「ギルロイが帰ってるかと思って遊びにきたら、声が聞こえてくるからつい気になっちゃって・・・。」とレイモンドが言い訳する。
「かまわないですよ。お二人ともどうぞお入りになって下さい。さすがにこの人数では多少手狭ですが、寝台の上にでもおすわりになって下さい。」セルムがにこやかに促す。
ロザリアは新た入ってきた二人を不審者を見る様な目つきで見ている。
「セルム、あんまりこいつらを甘やかすなよ。」そういってギルロイが肩をすくめ、扉を閉める。
むっとしてレイモンドが声を上げた。「ギルロイに言われたくないよ!一番人に面倒かけまくってるのにさ。」
「あ?」幼馴染みで仲は良いが、その分度々喧嘩もする二人の険悪ムードを断ち切ったのはロザリアの一言だった。
「セルム、この方達は・・?」鈴を転がした様な美しい声音に皆の視線がロザリアに集まる。
レイモンドはしばらく惚けて魂を盗られたかように目の前に座る美しい女性を凝視している。
「ご心配なさらなくても大丈夫ですよ、姉上。この方達はギルの親友とその従者の騎士である、カルキンさんです。この方達なら私たちの秘密の話を誰にも言ったりする事はありません、それどころか、きっと私たちの力になってくれる事でしょう。」そういってセルムは二人の方をみてにっこりと笑う。当の二人は首がおかしくなるのではないかと思う程何度も首を縦に振っている。まったく、男って奴は・・ギルロイは自分を棚に上げて何故か苦々しい思いで幼馴染みとその従者を見やった.