10話:殿下の事情3

ーー眉目秀麗、冷静沈着、運動神経も申し分ない。人当たりも良いがそれだけではなさそうだ・・カイルと同室になってから1ヶ月、ジェラルドはほとんど毎日の日程を彼と一緒に過ごしていた。個人的な事で敵意を置くには申し訳無い程、カイルはいい奴だった。そう、僕の苛立の元凶は彼ではない。だが、彼もそれに深く関わっている事は違いないのだが・・・。

「ジェラルド!今からジノリ教授の所かい?僕も一緒にいくよ。」2階の部屋の窓からカイルが手を振っているのが見えた。

「ほんとうに、、嫌になるぐらいいい奴なんだよな・・」こちらに向かって急いで駆けてくるカイルを見てつぶやく。だが、彼に聞きたいことは山ほどある。マリアベルからユフテスであった事を詳細に聞いた僕は自分でも部下を使って、ユフテス王家と塔の少年の事を調べていた。確かにカイルには、公には隠されているが、同じ王妃を母とする双子の兄弟がいる。出産に立ち会った乳母から直接聞いたのだから間違いないだろう。そして王の側室達との間に2男1女の弟妹が居るらしい。だが、塔に閉じ込められているというカイルの兄弟についての詳細はエストラーダが誇る諜報部員でも調べるのに苦心しているようだった。

「お待たせ、ジェラルド」
「おう・・、魔術の構造論についての論文は書き終わったのか?」
「ああ、もう少しかな・・?風系統の新しい構造論を組み立ててみたんだけど、、」歩きながら魔法と魔術の講義になってきた。カイルは魔術を専門に取ってるみたいだった。剣技のクラスでも優秀なカイルだったが、魔術に関しては教授達が競って教えたがるぐらいの才能を発揮していた。確かにユフテスには昔から、魔法に特化した能力が高い魔術師を沢山排出している土地だ。王族の中にも幾人か有名な魔術師が存在する。

「お前、俺と違って王位継承権第1位なんだろ?別に魔術なんてそんな必要ないんじゃないのか?ユフテルには沢山の優秀な魔術師がいるんだろう?」少し茶化したように言うとカイルの目にふといつもと違った光が宿った様な気がした。気のせいだっただろうか?
カイルはにこっと邪気の無い笑顔を向けると言った。
「王位・・ね。まあ、魔術は半分は趣味みたいなもんだよ・・。」その後、何故かそれ以上突っ込んで聞くのを拒否するように話をそらされてしまい、結局その日は突っ込んだ話は出来ずじまいだった。

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僕たちが17歳になった時、丁度リディアの社交界お披露目の舞踏会がアステールで行われる事になり、僕とカイルは共に出席する事になった。リディアには学院が休みに入った時にたまに会っていたが、距離を置く様になってからは、すれ違いも多く、最近は顔を合わせても嫌みを言われる事が多くなってきた。でも、今はまだそれでいい・・・そう、、今は。
「ジェラルドはリディアーナ姫の事をよく知ってるのかい?」舞踏会の前日珍しくカイルが僕に問いかけてきた。カイルはジェラルドと同じく女にもてるが、お決まりの笑顔で優しく撃退していたので、あまり女に興味が無いのだと思っていたのだが・・・

「ああ、僕とリディアは幼なじみだよ。親達が親友同士という事もあって、昔から行き来してるんだ・・どうしたんだい?君が女の事を聞いてくるなんて珍しいね。」

「そうなのか。いや、別に僕は女嫌いという訳ではないよ。ーーリディアーナ姫には、僕も幼い頃にお会いした事があるんだ・・。幼いながらにびっくりしたよ。こんな綺麗な姫君がいるのかってね。8歳であれだけの存在感だったのだから、今はどんなに美しくなっているのか楽しみだよ。」そういって懐かしむ様に微笑んだ。

まさか、カイルもリディアを・・・?
ジェラルドはゆっくりと口を開く。「いや・・相変わらずのおてんばに加えて最近は大分口も立つ様になってきたからね、会うとがっかりするかもしれないよ?」
「はは、それは益々楽しみだね。」
本当に・・・会うのが楽しみだよ、リディアーナ姫・・小さく呟かれた言葉はジェラルドの耳には届かなかった。

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