閑話:ルーク少年のご主人様観察日記1

僕のお使えするご主人様は彼の大帝国アステールと肩を並べる隣国エストラーダの第二王子ジェラルド様だ。

僕は元々エストラーダの上級貴族の次男坊で、同じく次男でいらっしゃられる王子の身の回りのお世話、兼従者としてのお話を頂き城へ上がる事となった。

文武両道、特に剣の腕では勝る者無しと誉れ高いジェラルド殿下の従者になれるなんて僕はなんて運が良いんだ!期待に胸を膨らませ逸る心を押さえつつ用意をする僕を横目に兄が言った。
「ルーク、お前さ・・あのジェラルド殿下の従者になったんだったよな・・・?」
「うわっ!兄さん、いつからそこに居たんですか?!」部屋の扉に身を預けてこちらを見ている兄がいた。ヤバい・・鼻歌を歌っていたのも聞かれたんだろうか・・・汗)

「は、はい。そうです。明日からジェラルド殿下について城の務めになります!」とニコニコした顔を尊敬する兄へ向ける。兄は、ジェラルド殿下の上の兄上でこの国の王位継承者であられるパトリック殿下の近衛を務められている。パトリック殿下は御年24歳になられ、最近大陸西方の国、パンディッタからお美しい姫君を妃として迎えられた。殿下は温厚で人望厚く、この国も益々安泰だ。

「そ、そうか・・・まあ、ルーク、これは兄としての忠告だが・・あまり過度な期待はするな?後で凹む事になるぞ?」

ルークはきょとんとした顔で兄を見つめる。「ああ、そうか!僕が舞い上がりすぎているから、ジェラルド殿下の前で何か失態を犯さないか心配してくれてるんですね、兄さん、大丈夫です。僕はもう12歳です。しっかりとお務めを果たすので心配なさらないで下さい!」

そういうと、兄は暫くの間頭を抱えていたが、ほうっとため息をつくと、「そういう意味ではなく・・・」と何か小さくぶつぶつと呟いていたが、その大きな手で僕の頭をくしゃりと撫でると、何かあれば、僕を頼ってきなさいといって出かけられた。同僚達と一緒に飲みに行かれるそうだ。

でも何か・・・ってなんだろう?兄の仰られる事はたまに理解ができない。ともかく明日から僕はジェラルド殿下の従者になるのだ。明日は早起きして頑張るぞ!っと僕は早々にベットに入った。明日から輝ける従者生活の第一歩だ!

次の日の朝、朝食を住ませると父が僕を城に連れて行った。幾人かの方々に御挨拶をして、父と別れ、僕はメイド長の後についてジェラルド様のお部屋に向かった。
どうしよう・・・胸がどきどきする。大理石の長い廊下を右へ左へと歩き回り、ようやく殿下の部屋の前にたどり着く。もう自分が通ってきた道さえ憶えていない。これは、迷子になるかもしれない。。

メイド長が扉をノックする。「ジェラルド殿下、新しい従者を連れて参りました。」うわあ!いよいよだ、どうしよう。内側から扉が開かれた。アレ・・?殿下ともう一人?
中から勢いよく誰かが飛び出してきた。なんだか真っ赤な顔をしている。何かあったんだろうか?「失礼しますっ・・・」そういって彼女は乱れた襟元を直しつつ去って行った。

メイド長が呆れた様子で殿下を睨まれた。「またですか・・・?あれほど城内の者に手を出さないで下さいと再三申し上げた筈ですが・・。」声が絶対零度の氷のように冷ややかだ。

奥にある大きなベットからくすくす笑いが聞こえた。「そんな怖い顔しないでくれ、別に取って食おうとした訳じゃない。」ベットの上には蜂蜜色の髪をすくいあげ、こちらを凝視する二つの青い宝石の様な双眸があった。この方がジェラルド殿下・・・?
上質の絹で出来た部屋着を身にまとって殿下はこちらに歩いて来られる。「その子が僕の新しい従者?」その美しい瞳に少しの間見惚れていた僕ははっとして身を固くする。
「は、はい、そうです。僕はキュレット公爵家の二男、ルークと申します。今年12歳になります。今日からよろしくお願い致します。」ぺこりと頭を下げる。

「ふ〜ん・・キュレットって、もしかしなくても、ロバートの弟・・?」兄を知っていらっしゃるのだろうか?うれしくなって僕は答える。「はい、ロバートは僕の兄です。」と殿下はその顔をゆっくりと僕に近づけてにやっと口の端を上げて言った。
「そうか・・・宜しくね・・?ルーク」背中にゾワッと悪寒が走ったのは気のせいに違いない。

 

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