番外編:愛する君の為に2

それから1ヶ月後、俺は学園都市、リザルに来ていた。入学手続きを済ませ、これから3年の間世話になる小さな2人部屋を見渡す。王族の場合、付き添いに一人の従者が認められる。その場合、主人と従者は暗黙の了解として同じ部屋になるのだが、俺はやっと手に入れた気ままな学園生活にわざわざ腰巾着を連れてくる必要も無いと考え、一人きりだ。
ということは、3年間の同居人となるパートナーがいるはずなのだが・・・同居人はまだ到着していない様だった。さして広くもないこの空間でずっと共に過ごす事となる相手だ。気にならないといえば嘘になる。明後日には入学初日となるのだから、最低でも明日にはつくだろう。俺は隣の空っぽのベッドを見て考える。

「とりあえず、飯でも食いに行くか・・・」俺はそう呟くと、生徒用の寄宿舎を後にした。学園都市というだけあって、リザルには安くて美味い食堂が沢山ある。このリムド大陸のみならず、その他2大陸、ウリムナやドーラからも沢山の王族、貴族階級の子女が集まる。
この学園都市では、王族であろうが、一貴族の子女であろうが、扱いは一緒だ。小さな2人部屋を与えられ、其処で3年間過ごす事となる。
まあ、王族に関しては一人の従者を伴う事が許されているので、ほとんどは従者との相部屋となるが、せっかくの学院生活だ。どうせなら違う相手と知り合うのも悪くはない。

食に関しても、3大陸の様々な郷土料理などが食べられる様手配してあり、毎日違った国の料理を食べる事もできる。昨日はモルジュアナの郷土料理を食べてみたが、小麦粉を練って薄く焼いた生地の上にふんだんに野菜や肉、そして独特のソースがかけられており、なかなか美味かった。これからの食生活には期待できそうだった。
しばらくぶらぶらと歩いていると前方に見知った顔がある。向こうもすぐにこちらに気がついた。
「ギルロイ!」隣国の王子、レイモンドが満面の笑みを浮かべて手を振っている。俺も軽く手を挙げると、やつのいる方へと歩いていった。
「お前んとこの部屋の相棒とはもう会ったのか?」
「いや、まだだ。多分明日にはくるだろう。お前の方は?」
「そうか・・。俺はこいつが一緒について来たからな・・」そういってレイモンドは自分の隣を指差す。そこには俺たちと同じ年ぐらいの線の細い少年が立っていた。
「誰だ・・?」

「あれ、お前会った事なかったけ、俺の従者のカルキンだ。こいつ、こんな細いなりしてっけど、優秀な騎士の家系の出なんだぜ。剣の腕もなかなかだしな。」俺がそいつの方に目を向けるとカルキンは黙って黙礼する。
「へえ・・そうなんだ。知らなかったな・・てかお前いつも従者なんて連れてたか?」
「いや、従者っても、ほとんど護衛に近いからな・・・。」
「そうか・・・。」最近エストラーダの国内では不穏な動きがあると聞く。その事もあっての護衛なのだろう。
「まあ、宜しくな。」そういって俺はカルキンに手を差し出す。一瞬吃驚した様な顔をしたが、おずおずと俺の出した手を握り返して来た。なるほど、結構握力もある。

「で、お前、まだ飯くってないんだったら、これ試してみないか?」そういってレイモンドは頭上にある看板を指差す。」そこには見慣れない文字が書かれている。リザルの学園都市では3大陸共通の言語であるサングリッドを使う。だが、看板に書かれているのは見慣れない文字だった。
「・・・どこの国の料理なんだ?」
「へへ、ここ、新しくできたスミルナの郷土料理の店らしいぜ。ドーラ大陸は他の二大陸と距離が随分離れてる上、砂漠の中にある国ばっかだろ。食文化も俺らのとはまったく違って面白いもんが食えるって聞いたからさ。」
「ふうん・・そうなのか。」まあ、とりあえずは食えれば何でも良い。寄宿舎で出される朝餉は寝坊したので食っていない。俺はきゅるきゅるとなる腹をかかえつつ、レイモンド達と一緒にその食堂の中に入った。
「いらっしゃい!」中から威勢の良い声が聞こえる。「学生さん達かい?その制服を見るところ新入生だね、学園都市、リザルへようこそ!とりあえずその辺の空いてる席に座ってくんな!」

店内を見回すと丁度店の奥に4人分のテーブルが空いている。俺たちはさっそく奥へいくとテーブルについた。
「どんなものがあるんだ・・・?」テーブルの真ん中に置いてあるメニューを広げる。色々と説明は書いてあるが、まったくもってどういう料理なのかわからない。3人でメニューを広げたまま考え込んでいると、ふいに隣から声が聞こえた。

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